印旛の白うさぎ

ついむかし

アメリカに白うさぎが住んでいました

白うさぎは向かいに見える大きな島にもう一度渡りたかったのです

「おーいワニさん」と近づいてきたワニに呼びかけました

「ワニさんの数とうさぎの数どっちが多いかな?」

「そんなのおいらたちの方が多いに決まってら」と自慢げに答えました

白うさぎはしめしめとおもいました

「そんなら数を数えてみよう」と言いました

ワニは仲間を集めて数えやすいように並びました

白うさぎはその背中を数えながら島に向かって渡って行きました

もう少しで島にたどり着こうというところで

「ほんとうは島に渡りたかっただけなのさ」と笑い飛ばしました

だまされたと知ったワニたちは怒り狂って白うさぎの背の皮をひんむきました

白うさぎの背中はかわいそうに真っ赤になりました

 

もう一歩で渡れなかったのはほんとです

ほかのうさぎたちに大嘘がばれてしまって離れてしまったのです

だから数で負けてしまって本気でみんな怒っているんです

白うさぎが行きたかった大きな島には何があったのでしょう

もう一度大統領へ返り咲くはかない夢があったのです

うさぎたちに声を張り上げ応援をお願いしました

でも自分勝手な白うさぎに愛想をつかしたのです

赤い背中を見せても誰も心配などしてくれません

一時の熱病は治まり夢ははかなくしぼんでいきます

 

白うさぎはどうしてこうなったのかわかろうともしませんでした

愚かで向こう見ずなふるまいでこうなったことを

ワニがみんな悪いのだと相手をののしってきたことを

いつも自分は正しいと敵を汚い言葉で叩いてきたことを

金に群がりたかるうさぎも馬鹿さ加減にようやく気づいたことを

戦いに負けた原因が身勝手な自分だと認めようとしないことを

 

背中の皮をむかれた白うさぎはその後どうなったの?

因幡の白うさぎのお話だと大国主命に助けられて改心するけど?

アメリカの白うさぎは改心どころかもっと過激になりそうです

自分さえよければ人の幸せなんかどうでもいいのです

白うさぎの強さは最後まで決してあきらめない執念です

皮をむかれてもひるまず神が見捨てた戦いに臨みます

 

20221116日書き下ろし。欲をかく者には神もお見捨てになるだろう。一神教の信者の願いを叶えるには神様も選り好みをするのだろうか。八百万の神のいる日本ならよかったのに]

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