年越し蕎麦を打つ
細く長く生きていくことに願をかけた
江戸の習いがいまに伝わる年越し蕎麦
蝦夷地の開拓は難儀を極めた
米はとれない
芋と蕎麦で飢えを忍んだ
蕎麦は痩せた土地にも実を付けた
秋の収穫の前に蕎麦で糊口を凌(しの)ぐ
祖母は開拓移民の子だった
九州久留米から室蘭に入ったが濃霧にやられた
厚真の奥に再度入植した
長女だった祖母は次から次にと生まれる赤子の世話に追われた
尋常小学校もまともに通えなかった
天理教の信仰が大きな救いだった
仕事は何でもまていだった
余すことなく食べ物は決して粗末にはしない
年の瀬必ず一羽の鶏を絞めた
羽を捨てる以外すべて食べた
骨は犬の餌になった
よく蕎麦団子を作っていた
傍らでそば粉を練って汁に入れるだけのこと
子どもの頃これで腹を満たしたという
粗末な食べ物がいまでは高級食になった
蕎麦打ちをして4回目
打ったそば粉は1.5㎏
本やネットで学習した
いろんなやり方があることがわかった
初めての蕎麦打ちから名人技まで満載だった
ひとつ気がついた
基本をマスターすればいいのだと
祖母は蕎麦は打たなかった
蕎麦粉を団子にしただけだった
道具立てがなければ打つこともできない
貧しい開拓農家には不釣り合いの道具だった
蕎麦屋のような蕎麦を求めない
名人のようなやり方も求めない
蘊蓄(うんちく)を傾けるようなことはしない
段も級も不要だと悟った
自分流のやり方でもいいんだと納得した
素材の味を生かすも殺すも基本だと理解した
最大の課題は角だし
うまく出せない
これは何度も挑戦することにした
だからといって蕎麦の味がそう変わるわけではない
見栄えの問題だと勝手に解釈した
きっと真剣にその道を究める人には叱られるだろう
ただ迷惑をかけているわけでもないのでお許しあれ
道具立ては師からの借り物
師は40年前蕎麦に見せられ一式道具を揃えた
しかし80を超えてリタイヤするまで打つ機会がなかった
10月幌加内の蕎麦をとって二人で試した
二八500グラムで1回目はまあまあの出来だった
二回目は見事に失敗した
だから二八の250グラムで勝負する
リベンジの2回目が今朝7時から始まった
3度打った
3時間で片付けも終わった
段取りもコツも飲み込みは早い方か
問題はのばす台が本来の大きさの半分で長方形なのだ
正方形にはならない
歪な長方形もどきを畳んで切るしかない
長さにはこだわった
師はざる蕎麦で食べたいという
長く切るにはと紙を切ってシミュレーションする
細く切るのはコツさえ掴めば難しくはなかった
6人前をパックに入れて宅配した
師の家も家族が揃い味わっていただけるだろう
我が家の蕎麦も十分足りる
初心者の打った蕎麦を食べていただけるだけでもありがたい
祖母はきっと嬉しそうに見ているかもしれない
おまえの打った蕎麦を食べたいという顔をして
蕎麦物語は来年に持ち越しとなる
その前に年越しをしておこう
[2022年12月30日書き下ろし。先週打った蕎麦も師に食べてもらい好評だった。今朝のは練りがいい感じだった。断じてまずいことはない。なぜなら蕎麦粉がいい]