えこひいきのカラオケ
4人の平均年齢78.25歳プラス若いひとり
1月以来の夕食会
歯がいかれた70代の老男ふたり
堅いものは食べられず閉口しつつも舌鼓
甘い厚焼き卵の中に入れたタラコは高評価
泡一杯のビールも旨い
83歳の誕生祝いに贈られたカラオケセット
お披露目の夜が来た
夏の夜も静かに暮れた住宅街
音量を気にかけて窓を閉め切る
無事セットも終わり勝負の時が来た
選曲に迷いなからも歌い出す
十八番の一つ長渕剛の「とんぼ」が流れる
歌詞のテロップの流れ方に戸惑いながら歌い始める
メロディー通りには決して歌えない
途中で唸るように歌う
歌詞も突然勝手に変える
俺だけの世界にひたる恍惚感
歌い終わると92点と表示された
これを目安の次々と歌い始める
74歳は96点と高得点
若いひとりは難なく98点クリア
98点越えを目指す熱いバトルが繰り返される
73歳へのえこひいきばりの厳しい評価は続く
80代夫妻はデュエット「愛の賛歌」で迫る
夫は一発逆転を狙って「琵琶湖周航の歌」を繰り出す
98点トップに並びしてやったりの満面の笑顔
時刻は21時半を回っていた
今日の勝負は98点の二人に譲ってあげることにした
全員で長渕剛「乾杯」をいい気分で合唱して締めた
これからもこの曲を締めの曲に決めてお開きになった
いつもの夜ならこんなに声を出すこともない
酔いが回ればすぐに横になるだけのこと
カラオケ居酒屋の看板をあげようか
ストレス発散にはホームカラオケの効果はすこぶる大きい
笑顔あふれる豊穣な時間がそこにあった
それが明日の活力になる種であり喜びだった
でもこのカラオケの採点はやっぱりえこひいきだ
高齢者にあまりにも優しすぎるのだ
そう思うとなぜか愛おしいカラオケになる
年を重ねれば98点も見えてくる
いま与えられた94点に納得しながら家路を急いだ
〔2023年6月29日書き下ろし。本当に乙なことをするカラオケの採点だった。一同一喜一憂した。まともに歌っても高点数は難しい。常識外れの採点が許されるのがいい。音程を年齢相応に外すことが優先されるのだ。だから面白がって大いに楽しめた!〕