残すべきもの
30年来愛用した鞄があった
綻びは所々に出ていた
皮の傷みもスレも時を数えた
2年前の誕生日手作りの鞄を贈られた
ようやく別れの時が来た
鞄を解体して2枚の本皮が残った
机上のシートに代用された
ふと気づいた
亡くなったら皮はガラクタと一緒に捨てられる
長年連れ添った想い出を作り直そう
スマホのケースに転用を決めた
皮の折り目をつけるために本を重ねてプレスした
数日して縫い合わせる箇所をボンドで接着した
翌日乾いたところで作業に入った
デザインと言うほどのものでもない
鞄のロゴを生かしたかっただけのものだ
長方形の短辺を上下縫い合わせるだけだ
折り返しの反対側の長辺を開放する
いわば財布型でスマホの大きさより少し長くした
一度も皮を縫い合わせたことはない
道具も身近にあるものを代用した
ダイソーで厚い木片を買っただけだった
千枚通しで厚めの皮に穴を開けるために下に置く
糸は蝋引きの糸が必要だが刺繍糸で代用した
物差しで5ミリ間隔に印をつけた
穴開けは木槌で千枚通しの頭を叩いた
でも容易に手でも貫通できることを知った
針は刺繍針2本を用いた
その針が通る穴を前後から千枚通しで広げた
手縫いの面白さは一様にはならないところだ
穴の位置は一直線にはならない
縫い合わせていくと少し気にかかる
すぐに諦め素人仕事と慰める
作業を終えた
縫った部分の背をマジックで黒くした
その部分を手元にあった皮の艶出しのワックスでしごいた
ようやく収まりの付いたケースが出来上がった
スマホを入れる
スマホを取り出す
いい感じだ
鞄は次の役目を担って再生した
〔2024年11月9日書き下ろし。手元もおぼつかなくなったいま、スマホを落とさぬようにする策をこれからに担ってもらおう〕