現代昔話「夢を買う男」
むかしむかしあるところに男がいました
たいそうな金持ちでなに不自由なく暮らしていました
こうしたいと思ったことはなんでも叶いました
こんなものがほしいと思うとすぐに手に入りました
迷うことも悩むことも知らずお金でぜんぶ済みました
あるとき子どもが「おらの夢は…」と話しているのを聞きました
夢って何だろうと思いました
食べ物だろうか
モノだろうか
夢を見たと言うから目に見えるのだと思いました
男は夢って何かを知らなかったのです
男は子どもの夢を買うことを思いつきました
夢を自分のものにするって何ってワクワクするのでしょう
町に出て子どもを見つけては夢を語ってもらいました
そして誰かにこの夢の話をしないよう約束させました
その代わりに夢を買うと言ってお金を渡しました
子どもはビックリして逃げていきました
子どもの夢はたわいないものでした
大きくなったらどんな仕事をしたいかとか
きれいな着物を着てみたいとか
美味しいものをお腹いっぱい食べてみたいとか
しっかりした夢もありました
育ててもらった親に孝行したいとか
困った人を助ける人になりたいとか
学問をしてみんなに喜ばれる偉い人になりたいとか
中にはお金持ちになりたいという子もいました
夢を語っている子はどの子もキラキラしています
男は夢は叶うことのない願いだとわかってきました
それでも夢が叶うよう頑張ることが楽しいと話すのです
男は夢に向かって目を輝かせる子どもが信じられません
自分はそんなことを一度も思った事もなかったからです
こうしたいと思ったことは何でもお金で出来たからです
こうして子どもの夢を買ってみて気づきました
男にはキラキラしたりドキドキしたりワクワクすることが
なにもなかったことを知らされたのです
男は一人の子どもに夢の話を聞いたときにハッとしました
子どもは夢をいくら買っても次から次とうまれてくるんだよ
その夢を買おうなんてずいぶん間の抜けた馬鹿げた話だね
おじさんは夢を買うと自分のものになったつもりでいるかもしれないけれど
夢は一人ひとりの心の中からうまれてくるんだ
その心を買うことなんてできるわけがない
もしかしておじさんは夢を見たことがないの?
男は何か恥ずかしい気持ちでいっぱいになりました
夢は買うものではなく見るものだとはっきりわかりました
夢を見ることが出来ないということがとても哀しくなりました
男は子どもに恥を忍んで聞きました
どうしたら夢を見ることができるんだい
子どもはお金で欲しいものを買おうという気持ちを捨てることかな
人ってどんなに貧しくても欲張りになると心まで貧しくなるって
だから人をおもいやる優しい心があればいい夢を見られるんだよ
そうしていつか大人になったときに夢以上のいい人間になるって教えてもらった
おとうやおかあのゆうことを聞いてみんなに喜ばれる人になるんだ
これがオラの一番の夢
男は顔を真っ赤にしてその場から逃げ出したくなりました
おれは子どもに笑われるようなことをしてきたんだと思い知られました
男はそれからというもの子どもの夢を叶えるように力を尽くしました
男はそれがオレの夢になったと言ったそうです