現代昔話 やさしさ禁止令
昔々あるところに変わり者の殿様いました
人の言ったことを全部反対にしてしまうのです
ご飯がおいしいというとまずいというのです
雨が降っているとぬれていても降ってないと強情を張ります
花がきれいに咲いたといえばすぐに枯れて散ってしまうと悪態をつきまます
まるで悪ガキのような殿様でした
そこで殿様を困らせてあげようと知恵を集めました
世の中思いやりややさしさが足りないと困ってしまう
だからみんながやさしくなるようにお殿様が命じてください
あまのじゃくのお殿様はさっそくやさしさ禁止令にしたのです
みんなグルになってお殿様にはやさしくしないようにしたのです
話すとお殿様はみんな反対にしてしまうのでそこも利用しました
あるいは黙って動くことにしました
ご飯はまずいものを出しました
お殿様がこれはまずいというと本当に美味しくてよかったですね
お風呂はぬる目にしました
お殿様は冷たいというと熱かったですかと答えます
朝起きて着物を着せるときも裏表を反対にして着せました
お殿様が怒ってしまうとよくお似合いになりますよと言いました
お酒の相手には老人ばかりを選びました
お殿様はもっと若いのはいないのかというと皆さんお若くて美しいと言いました
ある日城下の人たちがやさしさ禁止令を守っているのか見に行きました
殿様が来るというので町の人も思う存分意地悪をしました
馬に乗ってきたお殿様を見ると馬が可愛そうだと泣きました
馬から下りるとすかさず悪口三昧を浴びせました
しまいには馬糞まで投げてきました
あまりにもひどい仕打ちをされて怒り心頭に達しました
そのときです
男の子がひとり殿様の前に出てきて言いました
どうしてこんな馬鹿げた命令をしたの
やさしくしないなんて人間をやめるとおんなじだよね
したくもないのこうして誰かまわずにいじめる事って楽しいの
そんな世の中にしたいって本気でおもっている
おらはいやだ
人を馬鹿にしたり汚い言葉を使うなんてまっぴらごめんだ
だからお願いします
やさしさ禁止令をやめてください
男の子は涙を流しながら訴えました
殿様はその涙に打たれて怒りが消えました
あまのじゃくな自分を恥ずかしく思い始めました
このままでは国が滅んでしまうとようやく気づいて心配になりました
正直な男の子に謝ってもう二度と馬鹿げたことはしないと約束しました
そしてみんなの前でもうやめだやめだと宣言しました
こんどはみんながやさしくなるような「いじわる禁止令」にすると宣言しました
さてほんとうに優しさ禁止令が続いたらどんなことになっていたでしょう
やさしさって何なのか考えてみようね