さりげなく
さりとて佇むだけのこと
律義に構えることもなし
月下に幻の如く浮かびし姿かな
名のなき草の露に触れるだけのこと
濡れて苦にすることもなし
今宵の月に輝く小さき露かな
頃合いを見て動くだけのこと
面白き可笑しきこともなし
雲に隠れしおぼろ月かな
場に馴染まぬ会話だけのこと
うみし言葉を飾ることもなし
この世の闇を明かす残月かな
遠き浮世の想い出だけのこと
望みも高く退くこともなし
浮かれし未練に月また曇るかな
尽くせぬ欲への憂いだけのこと
口は口心は心とこともなし
所詮叶わぬ夢路に月落ちるかな
さりげなく月宿る秋の夜に想う
心も満たされぬゆえの感傷か
それとも安らかなる心境を映すか
〔2025年10月19日書き下ろし。短い秋の夜も更けてゆく〕