投稿

忌憚なく

はばかりなくもの申す ズケズケと欠点をあげつらう 耳の痛いところを突いてくる 達者な口から言葉がほとばしる 反論にも持論で素早く返す 付け入る隙なく意気揚々とする   遠慮することはない 図々しく振る舞う 我が物顔にして威圧する 容赦なく言葉で責め立てる 躊躇すればせきたてる 従順さを常に求める   忌憚なくを取り違える 勝手気ままに我を通す 正論だと異論を排除する 蔑みの言葉は先鋭化する 奥ゆかしさは微塵もない 追従しか選択肢はない   忌憚なく意見した 身の程を知らぬだけに抗う 知見の貧しさを追及する かばう言葉はその体をなさない 論破されれば激高する 小さな器に亀裂が入る   忌憚ない意見を拝聴した 受け入れるだけの度量を示す 感情を抑えて理を優先させる 言葉に敬意が滲んでくる 共感を覚えて理解を深める 互いに尊重する空気を醸し出す 〔 2025 年 12 月 1 日書き下ろし。忌憚という言葉の意味を確かめる〕   【忌憚 ( きたん)】はばかり,遠慮すること。普通,下に否定の語を伴って用いる。  

そこまで

諦めの座標軸 右でも左でもない 中途半端な思考停止 これ以上先には進めない そこまでか   可能性の座標軸 上でも下でもない 挑まずしての気力停止 これ以上先は見込めない そこまでと   思想の座標軸 右でも左でもない 日和っただけの対立停止 これ以上先はみっともない そこまでか   共存の座標軸 上も下も左も右も 唱えるだけで実現停止 これ以上先は望む術なし そこまでも至らず   屈辱の座標軸 上でも下でもない 打つ手ない反撥停止 これ以上先は見通せない そこまでかと   排斥の座標軸 右でも左でもない 優劣をつけて公平停止 これ以上先は憎むしかない そこまでか   差別の座標軸 上でも下でもない 嘆きしかない改革停止 これ以上先は目をつぶる そこまでかと   共生の座標軸 上も下も左も右も ブレるばかりで空論停止 これ以上先は目に余る そこまでも至らず   尊厳の座標軸 上も下もない 右も左もない 全ての人間への弾劾停止 これ以上先は求めない そこまでに力尽きてはならぬ

巻き込まれる

人様のことです 関わりません 関わりたくないです 構わないでください   人様のことに口出ししません 相談などされても困ります 知恵など何もありません 期待などしないでください   人様のことです 自分事ではありません 恩着せがましく閉口します ネチネチ言わないでください   人様のことに立ち入りません 尽くした手間は無駄でした 無駄にする時間はありません もう顔を出さないでください   人様のことです 失った信頼は戻りません 難題を持ち込まれても困ります 赦しを求めないでください   人様のことはこりごりです 結果はあなたの怠慢でした いまは自分事で手一杯です 二度と現れないでください   思い通りにならないのは世知辛さ 信じて裏切られるのは善良さ 拒んでも拒みきれないのが度量 人様のことに巻き込まれるのが人情か 〔 2025 年 11 月 30 日書き下ろし。巻き込まれながら人は年を重ねる〕

母への道

手稲の金山に母はいた 認知症を患い老人ホームに入れた 手稲に住む妹から近いという施設だった 石狩の女子大の講義の帰り道 母に会いに行った ベッドの脇で学生のレポートを読んだ 反応はなかったがそばにいた 時には伸びた手足の爪を切った   園の行事の度に妻とも通った 森本のゼリーがお気に入りだった 介護士にお願いして食べさせてもらった 食欲は旺盛だった 介助すると舌を伸ばして催促した 母の最後の週は枕元でいた 締め切りの迫った論文を書いていた 朝方巡回に来た介護士が脈がないと告げた 母に黄泉の国から戻るよう耳元で叫んだ 2014 年 3 月 30 日朝 6 時過ぎだった   今日数年ぶりに妻と長女と国道を走った 葬儀をした葬儀場を通り過ぎ想い出を語った 内輪の葬儀は常識破りの賑やかさだった 読経もなく娘のピアノの演奏がバックに流れた 妻も子も孫も母との想い出を語った 食事の後母の大好きなカラオケに興じた 妹が用意した景品に一喜一憂しながら母を偲んだ   金山に通じる道路を左に見て過ぎた 訪問の帰りに立ち寄ったアイスクリーム屋を探した 孫が喜んで食べていた情景を妻は語った 小樽銭函に家移りする娘の家に行く途中だった グランドピアノが玄関口からは搬入できなかった 昨日重機で持ち上げられてベランダから入った 3階のリビングに鎮座するピアノは安住の場を得た 16の時に買って45年は娘と共にあった そもそもは母が初孫にピアノを買い与えたことに始まる 高台のベランダからは銭函の街並みの先には海が見える 防波ブロックに白波が激しくぶち当たっていた 石狩湾を囲むように海洋に風力発電の風車が白い姿で立ち並ぶ 夏の景色を想像しながら灰色に化した冬景色に見入った ただ冬空に満天に降る星の光をここから見たいと欲した   短い滞在時間だったが陽の落ちるのは早い 手稲から札樽道の高速に乗った 大谷地で降りて自宅まで所要時間 50 分だった 妻と娘と一緒につかの間でも母を偲ぶ刻を愉しんだ   〔 2025 年 11 月 29 日書き下ろし。慕情に心動いた〕

弥縫(びほう)する

取り繕うこと多し 人は些細なことで失敗する 恥ずかしさを誤魔化す 人はつまらぬ事で失言する 言い訳をして体裁を繕う 人は貧しい知見を晒す 知ったかぶりを逸らす 人は根も葉もない醜聞を楽しむ 妬みを見せれば話題を変える 人はよく欠点をあげつらう 矛先が向かぬよう立ち回る   取り繕うこと多し 根拠の薄い品定めをする 人の見る目のなさを悔いる 迷ったあげく判断する 人の意向を汲めず落ち込む 力量を過信して突き進む 人の批判は誰かのせいにする 責任を回避できねば頬っ被りする 人の非難には知らんぷりする   人は誰しも失敗する 素直に認めぬのはなぜか 人は取り繕うことで対面を保つ 弁解を容認する関係に甘える 人は補い合わせてつながる 度量の持ち方が関係を決める   ※弥縫(びほう)補い合わせること。失敗や欠点をとりつくろうこと。   〔 2025 年 11 月 29 日書き下ろし。弥縫という言葉が気にかかった〕

寛容と共生

恵まれていれば多少のことに目をつぶる 面倒に巻き込まれたくはない 余計な干渉はされたくはない 誰が何をしようが関わらない これを寛容という名で包み込む 誰からも批判はされない それどころか評価されて苦笑いする   恵まれていれば暮らし向きは心配ない 他人に関わることも最小限にしておく 誰かとつるんで何かする気などさらさらない 多少の施しは体裁を繕うだけのことだ これを自律という名で包み込む 誰からも羨ましがられる それどころか憧れられて照れ笑いする   恵まれなければ暮らし向きに事欠く 一人では不安がつきまとう 誰かの助けがなければ難しい だから共生という名で包み込む 誰もが助け合いと支え合いを求め合う それどころか共助を強要されて難渋する   恵まれなければ暮らし向きは傾く 働けども恩恵薄い みんなが不満を口にして苦労する だから共存という名で包み込む 誰もが生きやすい社会は形骸化していく それどころか搾取をされて泣き寝入りする   誰が寛容になり得るのか 恵まれない境遇を嘆くことを忘れたか 同じような境遇にいることへの慰めか はたまた寛容という言葉で不平を黙らせるのか   誰が共生を唱えるのか 恵まれない境遇を共に嘆き合うのか 同じような環境にいる者への幻想か はたまた孤立を拒む言葉として騙すのか   寛容な社会とは忿怒への抑制か 懐疑しよう 共生社会とは貧困者への対策か 解明しよう 寛容も共生も富める者たちの支配か 警戒しよう   〔 2025 年 11 月 28 日書き下ろし。耳ざわりのいい言葉の裏を考えよう〕

やります

やりますやります 何やるの 口先だけでは伝わらない 言葉が透けて飛んでゆく 何をするのかはっきりおっしゃい   できますできます 何するの 意気込みだけでは信用ならない 言葉が虚しく消えてゆく 何もできないのなら黙ってらっしゃい   あれもこれも 何のこと 並べるだけでは役には立たぬ 言葉は飾りと成り下がる 何でもごっちゃに突っ立てらっしゃい   いつでもどこでも 何のこと 人手もないのに無理だとわかる 言葉は人寄せ道具に使われる 何でも儲ける算段棄ててらっしゃい   ほんとほんと 何のこと 怪しいだけに眉に唾する 言葉は噓をつかされる 何が何でもの魂胆見てらっしゃい   〔 2025 年 11 月 27 日書き下ろし。言葉はその人なりを表すのか〕