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忘れることに抗う

忘れたいことがある 思い出したくない汚点 記憶から消去したい罪 なかったことにしたい失敗 否定したい裏切りの代償 騙し続けることの悔恨 強い憎しみを抱いた不信 恥ずかしさを覆い隠す劣等感 本意ではない生き方   忘れようとしてもできない 記憶の澱がかき回される 沈殿した残骸が浮かぶ 逃れられない金縛りにかかる 忘却は虚しく諦めるしかない 囚われて記憶の淵から蘇る   忘れることに抗う 忘却の河に流せない苦痛は鮮明だ 才覚は小さな器であると実感する 寛容を求めるに自分勝手と知る 正当化できない不純を弄ぶ 自責の念を回顧し痛みを緩和する しくじった数々を過小に処理していく 己に都合の良い物語を創ってやり過ごす   追憶の幸せとはなにか 消えてしまった幼少期の楽しき記憶 貧しくともぬくもりある家族の団らん 若かりし頃の純朴な夢と挫折 老いてこそ知る苦渋の中にあった幸せを 噛みしめる時間に誰かそばにいるのだろうか   〔 2025 年 7 月 9 日書き下ろし。せめて幸せの記憶を想い出そう〕

言質を取る

何気ない言葉が引っかかる 冗談がトゲのように突き刺さる 心の奥に潜めた傷がうずく   悪気ない言葉に反応する 責め立てられるようで身構える 過去のあやまちがよみがえる   つまらない言葉を受け流す 求められる同意が面倒くさい 会話の浅さに閉口する   見え透いた言葉に嫌気さす かき回されるのは耐えられない 禍根を残すのは仕方ないか   同意できぬ言葉に抗う 歯の浮くような誘いが忌まわしい 拒絶は別れの表明となる   発した言葉に疑念を生じた 一瞬許容の心が揺らぐ 醸し出す不安を打ち消す   思い合う言葉に心安らぐ 信頼を紡ぐ糸を太くする 丸ごと受け入れ認め合う   リスペクトする言葉が生きる 理解し合う敬愛が宿る 言葉はそのまま真実を語る   〔 2025 年 7 月 9 日書き下ろし。言葉は相手によって傷つける場面がある。信頼関係がない場合は顕著だ。あっても時に不安をうむ〕

資料を棄てる

いよいよというか ようやくというか 棄てきれない資料に ようやく手を付けた   いよいよという日になった ようやくという日にした 棄てきれない思いに ようやく踏ん切りを付けた   とはいっても段ボール 4 箱 A4 版 500 枚 5 セット入る小さなものだ 棄てると決めた資料をターゲットにする 朝 9 時から昼食休憩を入れて 15 時半まで 暑い部屋の中で 5 時間半作業した   しかしまだまだ残る 仕分けの面倒さを先延ばしする 無論授業後の子どもの感想文はそのまま 本棚は詩作のファイルで完璧に埋まった   さてさて大きな本箱を空にするのはいつのことか 本の断捨離は一向にされず足元もいっぱいになった 脇机に積まれた本が少し片付いた程度でしかない 仕事もなくただ本を眺めるだけの暮らしだ 知のオアシスとはいかなくとも意欲が湧けばいい せめてもの贅沢というのだろう   これから森林公園までママチャリで汗してこよう これも気ままに風を感じてくる贅沢な運動かな   〔 2025 年 7 月 8 日書き下ろし。暑い中、ダラダラと作業する。今度棄てる気になるのはいつか〕  

野垂れ死にはしない

蛇に睨まれた蛙の如し 窒息せんばかしに息を潜める 身動き取れずにうずくまる 声も出せずに怯えおののき固まる 凶暴さに逆らわぬよう身を縮める 身に降りかかる次の言葉を待つ   虎の威を借る狐の如し 恐怖でおののく姿を見て楽しむ 嗜虐をもてあそび面白がる 鬼気として惨殺をむさぼる 死闘を煽り敵対心を操る 驚愕の様相をさらに過激にする   虎穴に入らずんば虎児を得ずの如し なぜこの世に生まれてきたのか 地獄を味わう生にどんな意味があるのかを問う なぜこんな仕打ちを受けねばならぬのか 飢餓に苦しむ生にどんな明日があるのかを疑う なぜこんな不幸を背負わねばならぬのか 死のみが解放される道だというのかを否定する   井の中の蛙大海を知らずの如し 文字を知らずば意を伝えられず 意味を知らずば事を判じえず 情勢を知らずば先の見通し立たず 敵を知らずば策の段取り立たず 世を正すを知らずば恐怖に甘んじよ   苦境に陥る教育の機能不全は無知を放置する   〔 2025 年 7 月 6 日書き下ろし。教師の問題以前に公教育としてのあり方そのものが問われている〕

好きの理由

いちいち好きなわけをなぜ聞くの 理由がなければ好きになっちゃいけないの   このラーメンは他の店よりスープがうまい ここは観光客も少なくて静かで落ち着くのがいい この人は他人の面倒目が良くて安心できる   好きな理由を捜すって何でかな? 人気のわけを集めて儲けるためかい よく分からない人を良く知ろうってことかい   好きになる理由って千差万別だよね 食べ物や音楽やファッションは好みだよね 流行に流されるのは商戦にのってるだけかな 流行廃りが激しくて乗り遅れまいとするのも滑稽だね   好きになるって一目惚れみたいな感覚かな なぜって聞かれても答えられない 自問しても好きになっちゃったとしか言えない   好きになることって自由だよね 思慮深さを求めるわけでは決してない センスの感度を測ることでもない   好きな理由って後付けみたいで嫌だな みんなと違うと言われるのを警戒する ダサいと見下されるのが恥ずかしい   好きになるって面倒くさいな 人間性を問われてる気がしてこない 知力も感性も晒される気がしてこない   理由のない好きが一番好きだな   〔 2025 年 7 月 5 日書き下ろし。好きという感情を一番大事にしたいね〕

ママチャリで走る?

踵痛とアキレス腱痛で歩くのが辛い 踵痛は 2 年前名古屋空港で突然発症した 豊田市で 2 日間仕事をしてバスで移動した 特に何かしたという原因も分からない 両足に走った激痛は半端なかった 待合のロビーで靴を脱ぎマッサージを試みた 搭乗まで足を解放して痛みを和らげた 帰宅後整形外科に行った 診断は踵痛で特に投薬治療はないという リハビリを進められたがその動きは家でも出来た 対処策は靴の下敷きをクッション性にする程度だった   発症からちょうど 2 年経った 多少緩和されたが長い距離は歩かない 歩くのが億劫になったところでアキレス腱に痛みが走った 時々でる症状だが今回は長引いている 消炎剤の塗り薬で対処しているがすぐにはひかない なかなか厄介な痛みだと諦めるほかはない   2 年ばかり埃を被ったママチャリがある 5 月にパンクを修理して乗ろうかと思っていた 6 月ヘルメットを買った 被っている者はまだ少数派だが心めたさは消えた さていつ被ろうかと思案した アキレス腱の状態もいまいちだし暑い日が邪魔をした このままだともう乗る機会はなくなる そう思いつつ青少年科学館までこいでみた そして昨日丸 2 年行かなかった森林公園に向かった   北海道百年記念塔は昨秋老朽化のために壊された 開拓の村には裏の道があり、人通りは少ない 散策のいつものコースを選択した 登り坂に挑んだ 5 段ギアは一番軽いが進まない いよいよ立ちこぎになったがギブアップはしなかった 太ももの筋肉は張っている 全身たっぷりと汗が噴き出す 開拓の村の前を通り北海道博物館の登り坂に入った ここをクリアすればもう登り坂はない 長い距離ではないが老身にはこたえる 百年記念塔跡に辿り着いた 夏草が茂り跡形もなく平地(ひらち)になっていた シンボルが消えて寂寥感が襲った 帰り道は楽勝だった 幸いなことにアキレス腱の痛みはなかった   熱い陽射しが汗でグダグダになったシャツを照らす 体重を落とすにも運動はかかせない 今週は 30 度を超える夏日が続く 家に閉じこもっては気が滅入る 少し続...

思っていたよりは

思っていたよりは悪くはない そう思うだけでも幸せか   良い方に何事も向かうはずはない 悪いことも度々起こる 避けようのないことは仕方ない それでも思ったよりは悪くはない そう思うことにしなきゃやってられない   力一杯やったから報われるとは限らない 努力の分だけ見返りがあるわけじゃない 上手くいって当たり前で失敗すれば元の木阿弥 受け入れなくちゃ仕方ないことも大有りだ そう悲観しててはやってられない   思ったよりはいいこともたまにはある 実力以上に力を発揮できたこともある たまたま効果が覿面 ( てきめん ) ってこともある 相手が喜んでくれるのが励みになる そう思うからしんどくても頑張るしかないか   思っていたよりは波瀾万丈だったな 凸凹のような苦難の道だけれどそれなりに納得できる 人様に後ろ指だけは指されちゃいけない 道理に外れたら人間のクズになるしかない 親の教えはいまも大事にしている 偉ぶることもなく人並みでもいいじゃないか   思っていたよりは誇ることなく前は向ける 煩わしいこともなく日々平凡が一番だよな 悩むことも少なくなったのも有り難い 金はなくても贅沢さえしなければやっていける 人生の幕引きにもう少し時間は残っているようだ   思っていたより懸命に生きてきたかも知れない 思っていたよりは先を見越していたかも知れない 思っていたよりいまは幸せかも知れない 思っていたよりもオレらしかったかも知れない   〔 2025 年 7 月 2 日書き下ろし。人生の物さしって、思っていたよりはが基準になるやもしれない〕