忘れることに抗う
忘れたいことがある 思い出したくない汚点 記憶から消去したい罪 なかったことにしたい失敗 否定したい裏切りの代償 騙し続けることの悔恨 強い憎しみを抱いた不信 恥ずかしさを覆い隠す劣等感 本意ではない生き方 忘れようとしてもできない 記憶の澱がかき回される 沈殿した残骸が浮かぶ 逃れられない金縛りにかかる 忘却は虚しく諦めるしかない 囚われて記憶の淵から蘇る 忘れることに抗う 忘却の河に流せない苦痛は鮮明だ 才覚は小さな器であると実感する 寛容を求めるに自分勝手と知る 正当化できない不純を弄ぶ 自責の念を回顧し痛みを緩和する しくじった数々を過小に処理していく 己に都合の良い物語を創ってやり過ごす 追憶の幸せとはなにか 消えてしまった幼少期の楽しき記憶 貧しくともぬくもりある家族の団らん 若かりし頃の純朴な夢と挫折 老いてこそ知る苦渋の中にあった幸せを 噛みしめる時間に誰かそばにいるのだろうか 〔 2025 年 7 月 9 日書き下ろし。せめて幸せの記憶を想い出そう〕