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善人ぶらない

頼まれれば断れない やれると思って引き受ける 頼んだ相手は見くびり楽をする 使い勝手がいいと陰口を叩かれる いいように使われているだけのこと ご苦労さんの一言で済まされる 上辺だけの感謝にまた流される   従っているだけなら悶着は起きない 空気を読んでいれば輪の中にいる 陰で嘲笑されているのも知っている うまくあしらわれているのも仕方ない 端から見ればお人好しにしか映らない 疎まれたくなくて断り切れない 出来ることだと自分に言い聞かせる   人の良さが禍する 引っ込み思案でないからたちが悪い 頼られるとつい親身になってしまう 見返りを求めるわけでは決してない 困っていれば手を貸すしかない その性格が利用されて苦渋をなめる 善人ぶってると妬まれる   他人事にかまって自分の時間がない 生きてる時間が人の煩わしさですり減ってゆく 余計な心配事で心も安まることはない 断れば関係を棄てたかのように思われる いい顔してと言われても性分だと諦める 面倒くさいと思っていても顔には出せない 外面の良さが偽善者にようだと自覚する   相手への気遣いが優先される 自分が思っていた言葉を飲み込む 相手はされた恩はすぐに忘れる 相手が施したことはいつまでも覚えている それでもなお相手に寄りそうしかない 受けた恩は世間に回すと教わった 善人ぶってると言われようとなかなかしぶとい   善人ぶってるとあんたは言えるのかい 善人ぶろうがあんたになにかしたかい 善人ぶってもあんたのやらないことをする 善人ぶって何が悪いかあんた言ってみなよ 人の善意を手のひらで弄ぶあんたはいったい何者だ   〔 2025 年 9 月 3 日書き下ろし。善人ぶると言われても、その人の生き方。ただそれを利用する輩が少なくないことも事実だ〕  

価値を見出す

たわいない代物だった 決して高価ではなかった 幼子はそのタオルが必要だった 眠りにつくには欠かせなかった タオルの感触が心地よいのだろう 心が落ち着いて安眠を誘った 不眠症の睡眠導入剤など不要だった タオルに価値を与えることが尊いのだ   何の取り柄もない人だった 優れた能力があるわけでもなかった 幼子にはその人が必要だった そばにいるだけでなぜか安らいだ 陽だまりのようなぬくもりを感じた ヒステリックに指図する人は苦手だった その人に価値を与えることが素敵なのだ   黙って見ている人だった 何か特別なことをするわけではなかった 幼子には見守りが必要だった ただいるだけで安心して遊んだ 時々笑顔で見る目が優しかった 口うるさく注意する人は怖かった その人の価値を見出すことが嬉しいのだ   一緒に何でもする人だった 保育の経験があるわけではなかった 幼子にはお話にもお遊びにも必要だった 叱らず褒めてその気にさせた 明るい笑顔と元気な声が虜にした 疲れた顔で不機嫌な人は近寄りがたかった その人の価値を幼子は正しく見抜いていたのだ   たくさんの夢を語る人だった 美しい言葉が夢の世界を彩った 幼子には新しい言葉が必要だった 成長に伴い世界を広げていく言葉だった 優しさと思いやりが言葉にも満ちた いつも一緒にいても飽きることはなかった その人の価値は幼子に憧れの人となった   〔 2025 年 9 月 3 日書き下ろし。価値をお金で表す経済資本主義に毒された世界で、本当の価値を知っているのは幼子たちだ〕

わたしが必要とされる理由

12 月民生委員児童委員の改選が行われる 翌 1 月末から新任の委員研修が 14 管内で始まる 教材として「詩集」を編纂してきた 改編版を出さねばならない   ワークショップ形式で使用する詩編は 15 編程度だ 詩集には参加者の多様なニーズに対応して 80 余編を編纂する 8 割の詩編はゆっくり自宅で味わっていただくお土産となる   改編は骨組みの構成と中味をいじることになる いままでの構成は納得のいく内容だったから変更は難しい それでもなお改編する理由はマンネリ化を避けるためだ   変わらぬ思いや変えてはならぬ思いは確かにある 実態に対応し新たな視点で詩編を構成し組み込むことは誠意だ 研修教材をつくる者に熱意と企画力が問われる   新たな出会いに改編する詩集を準備する愉しさを味わおう 問題は詩編の悩ましい選択にある 12 月初めまでが印刷に送る原稿の締め切りだ それまでも Blog に発表する詩編は増えてゆく 改編のテーマに融合した新たな詩編も作らねばならぬ 夏の暑さが薄れ秋めいてくる季節は幸いなるか 創作の秋を満喫する課題があるだけで日々の景色が変わってゆく   詩集の題名は「わたしが必要とされる理由」に決めた   〔 2025 年 9 月 2 日書き下ろし。民生委員児童委員の新任研修の教材づくりの一歩が始まった〕  

軋む心

人との関わりは難しい 噓をつかれるとは思いもよらない なぜという戸惑いが付きまとう 軋(きし)むのは傷ついた心か   独りよがりなわけではない 相手の言葉を鵜呑みにした 人の良いのに付け込まれた 騙されて悔しさが湧き上がる   人を信じるのは難しい 気を許すとしっぺ返しを喰らう なぜという情けなさが深くなる 軋むのは折れた心か   裏切られると身に浸みる 実害はあっても戻ってはこない 憤怒の感情が収まらない 軽信だった己への慚愧(ざんき)に堪えない   人は平素に裏の顔を見せる 違法でなければ罰せられない 平然とした態度が白々しい 軋むのは砕けた心か   悔悟するのは己でしかない 羞恥心がもたげて黙しかない 嫌悪感しかない出会いを恨む 避けるようにして平穏を求める   〔 2025 年 9 月 1 日書き下ろし。世間の人間関係を維持するには忍耐か。壊れたら断絶か。こんな人間とは関わりたくない〕  

死ぬな!

なぜそこまで追い詰めるのか 学校に行かない ただそれだけのことで 死に神を呼ぶのか   なぜ誰も知らんぷりするのか 学校に行けない ただそれだけのことで シカトして存在を消すのか   なぜ行かねばならぬのか 学校はいかない ただそう決めただけで 冷たい態度に晒されるのか   なぜ考えるだけでもしんどいのか 学校には何もない ただ空っぽな時間だけで 息苦しさから逃れられないのか   なぜここまで来てしまったのか 学校とはさよならだ ただみんなと違うだけで 噓をつけない正直者だからか   なぜ誰も気づかないのだろう 学校は魔物だ ただ空気を読めないだけで 自死を選ぶだけのことか   なぜひとりぼっちになるんだ 学校なんかに縛られるな ただもう一度確かめてほしいい きみを愛しむ人がいることを なぜそこまで追い込むのか 学校なんかもうどうでもいい ただただきみの壊れた心が痛ましい お願いだ!生きれくれ!   〔 2025 年 9 月 1 日書き下ろし。 9 月 1 日は子どもの自死が一番多い日。誰が死に神を追い払うのか。問題が起これば、学校は責任回避に走る〕

子どもたちへ残す言葉

子どもたちへ 悲しみの泪を拭う 優しき言葉を残したい 抱きしめるぬくもりを添えて   子どもたちへ 苦しみの切なさを拭う 温かき言葉を残したい 抱きしめる情愛を添えて   子どもたちへ 悩ましき不安を拭う 愉しき言葉を残したい 抱きしめる喜びを添えて   子どもたちへ いじめられた痛みを拭う 大丈夫という言葉を残したい 抱きしめる勇気を添えて   子どもたちへ 恐怖へのおののきを拭う 生きようという言葉を残したい 抱きしめる安心を添えて   子どもたちへ 未来への絶望を拭う 希望の灯火という言葉を残したい 抱きしめる決意を添えて   子どもたちへ 生まれてきたな哀しみを拭う喜びを伝えたい ひとりぼっちにならない詩を残したい 抱きしめて抱きしめて共に生きたいおもいを添えて   〔 2025 年 8 月 31 日書き下ろし。 Blog 投稿 1500 編。子どもへの Message 。いつもここが出発点〕  

廟に眠る

墓誌に 57 歳の娘の名があった それから 1 年半後母は 88 歳で逝った   母は娘より先に死ねないと口にした 娘は障がい者施設で暮らす 母は盲老人ホームで暮らす 離ればなれで長いこと暮らしていた   娘の死を知らされた 母は娘の名を呼ぶだけだった 認知症が進んでいた それでも娘を愛しむ様子があった   身寄りは母しかいない お骨は母の施設で引き取った 母は娘を見送ったことで安らいだのか 静かに息を引き取ったという   行く当てのない遺骨を弔う廟を持つ 45 年前に篤志家の支援を得て建立した 二人の遺骨は 85 人の方と縁を結ぶ 今日しめやかに年に一度の慰霊祭があった   廟の周りに 6 枚の墓誌がある 空白は 2 人分となった どのように増設するか話題になった 法人の職員の手で大切に継承され守られてゆく   墓誌に刻まれた故人の名前を読む 平成の時代に入るとベテランの職員も知るところとなる その人なりとエピソードが話題になる 墓参りに来る家族がいなくても覚えている人がいる   廟の中には 20 余の骨箱が安置されている これらのお骨を土に返す弔いをするのは職員だ 因縁を結んだ人との繋がりを大切にする職員がいる 墓仕舞いして無縁仏が多くなる世相に抗う職員たちかも知れない   老人介護施設に実習に来ている 3 人のアジア人もいた ヒジャブを被るモスリンの若い娘もいた 日本の物故者を弔う儀式に参列していた 異教文化を学ぶ貴重な体験となったであろう   曇天の空の下 85 歳の老僧の読経が渋く流れた 二つの施設をインターネットで結んでいた 新型コロナの置き土産はここでもいかされる 盲老人たちは施設に流れる声を聴き取っていた   南無阿弥陀仏を唱えて合掌する 無縁である人たちの霊と結ばれる日となった   〔 2025 年 8 月 29 日書き下ろし。北海道友愛福祉会は全国でも稀な法人として廟を持つ。 無縁仏にならぬよう、墓誌に名を刻む。そこには人知れず深いドラ...