父とのツーショット
まだ 23 歳の父だった 優しげな顔立ちによだれかけをした着物姿の自分が写っていた 予科練崩れの果てに荒れた 鵡川のアイヌに嫁いだ祖父勢吉の妹を頼った 樺太の敷香で芸者をしていた ロシアに侵攻されて命さながら逃げてきた 行き着いた先はひもじさをしのぐ後妻だった 竹叔母は小柄な可愛い優しい人だった 祖父の家に来ては仲良く焼酎をたしなんだ 父は鵡川で漁師の手伝いをした 海釣りはその名残だろうか よく父を連れて遠征した そんな父を見かねて祖父は大阪から母を呼んだ 赤いワンピースをきたハイカラさんは目立ったことだろう へらと呼ばれる年上女房だった 母 23 歳父 22 歳の結婚だった 親戚縁者が狭い家を一杯にした 最初の子は流れた そして自分が生まれた 流れていなければこの世に存在しない そんな命を父もきっと愛しんだのだろう むろん祖父母は目に入れてもいたくないと溺愛 (できあい) した 父とのツーショット 手にはリンゴが父の大きな手で添えられていた 1 歳の誕生日頃の写真を見つけた リンゴが好きな理由がわかった 父も母も祖父母も竹叔母もいまもここにいる なぜか涙が出た 〔 2025 年 12 月 16 日書き下ろし。いまを現す〕