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父とのツーショット

まだ 23 歳の父だった 優しげな顔立ちによだれかけをした着物姿の自分が写っていた   予科練崩れの果てに荒れた 鵡川のアイヌに嫁いだ祖父勢吉の妹を頼った 樺太の敷香で芸者をしていた ロシアに侵攻されて命さながら逃げてきた 行き着いた先はひもじさをしのぐ後妻だった 竹叔母は小柄な可愛い優しい人だった 祖父の家に来ては仲良く焼酎をたしなんだ 父は鵡川で漁師の手伝いをした 海釣りはその名残だろうか よく父を連れて遠征した   そんな父を見かねて祖父は大阪から母を呼んだ 赤いワンピースをきたハイカラさんは目立ったことだろう へらと呼ばれる年上女房だった 母 23 歳父 22 歳の結婚だった 親戚縁者が狭い家を一杯にした 最初の子は流れた そして自分が生まれた 流れていなければこの世に存在しない そんな命を父もきっと愛しんだのだろう むろん祖父母は目に入れてもいたくないと溺愛 (できあい) した   父とのツーショット 手にはリンゴが父の大きな手で添えられていた 1 歳の誕生日頃の写真を見つけた リンゴが好きな理由がわかった 父も母も祖父母も竹叔母もいまもここにいる なぜか涙が出た   〔 2025 年 12 月 16 日書き下ろし。いまを現す〕  

余韻が残る

詩を朗読する 読み終えて余韻が残った 静かに問いかけてくる詩文が残った いたずらに読んだ詩に心が揺れた 弱さをあからさまにされた なぜか爽快感が紛れ込んでいた   詩を朗読する 読み終えて余韻に浸った 情感に迫るような詩文ではなかった 言葉は平易で難しい表現もなかった 素直にその意が伝わってきた なぜか充足感が広がっていた   詩を朗読する 読み終えて余韻を噛みしめた 言葉が響き合い鷲づかみにされた 共苦を知り言葉にするのを躊躇った わかり合えることの喜びに変わった なぜか悲哀感が薄まっていった   詩を朗読する 読み終えて余韻を味わった 詩情はその世界を見せてくれた 短い詩文に圧縮されたのは想像力だった 感受性を試されて沈黙した なぜか共感が強まっていた   詩を朗読した 読み終えて余韻をしたためた 涙の理由 ( わけ ) を記した 感情の高ぶりを覚えた 表現力という技巧ではなかった なぜか稚拙感に囚われていた 〔 2025 年 12 月 15 日書き下ろし。趣ある詩とはどんな詩なのか。似つかわないと知る〕  

脈をみる

脈拍が一気に上がる チャリで急坂の登りを懐かしむ 森林公園の裏道はすでに雪で閉ざされた 来春まで鍛えた脚力は一気に衰える また一からやり直し仕切り直しだ 果たして気力は復活するか 穏やかに打つ脈拍にいまは安息にいる   人脈は一気に廃れていった 現役をいつ退場したのか曖昧だった 確かなことは人脈も世代交代を迎えていた 過去に執着するほどの実績もない 仕事に関わる人と情報は不要となった 世間の欠かすことの出来ない付き合いが熟す 狭い世間で手一杯でいいと安住している   水脈は一気に汚れてゆく 地下に潜った水はいつか汚染されていく 人的な要因で経済というモンスターが暴れる 抑制できずに金儲けにうつつを抜かす 政治も企業もいかに騙すかというせめぎ合いを続ける 言葉も汚れて不信という文字が意味を失う 知らず知らずに扇動されて人も判断不能となる   金脈だけがいまも健在だ どれだけ稼いでも強慾は充たされない 金に取り憑かれた者たちのマネーゲームに終わりはない 命の時間を切り売りする貧困層は食い物にされる 金脈を離さず取り入る政治家たちが口を閉じる 死の商人たちは政治を動かし戦場を広げる 歪んだ魂を救えぬ宗教が堕落してゆく   文脈の怪しい言葉を書きつける 理解されようとされまいといまを表す 書く事への意欲がなし崩しにされる 焦点ボケした文章は意味すら失っていく 書くという行為が何を意味したのか 自戒と沈黙が言葉を遠ざけようとする 乱れる文脈に猥雑な時代を映す   〔 2025 年 12 月 14 日書き下ろし。脈のない相手に構うことはないか〕

無意識を知らず

発せられる言葉にふとわいたおかしみ 遊びの流れで生まれた言葉に真意を見る なぜか流せぬ言葉に意識の深層を探る 寂しさと不安を言葉に隠す 甘えを求める弱さを呑み込む ひとは戯れながら無意識に言葉を託す   発せられる言葉にふとわいた冷たさ 普段の会話で交わされた言葉に真意を知る なぜか捨て置けぬ言葉に意識の深層を探る 醒めたつながりが言葉に潜む 関係悪化を避けて平然を装う ひとは何気ない一言に無意識に本音を晒す   発せられる言葉にふとわいた温かみ 距離を保った言葉に気遣いを感じる なぜか想定外の言葉に戸惑い深層を探る 情に流されることを避けてきた言葉に惑わされた 深みよりも緩いつながりを求めていた ひとは言葉の重みを無意識に軽はずみに使った   発せられる言葉にふとわいた慈しみ 温情ある言葉と態度に信愛を覚えた なぜか人柄が滲む言葉に深層を探る 悲哀も苦節も味わって言葉が優しくなる 苦悩の中でこそ知る思いやりだった ひとは慎ましさから無意識に言葉が丸くなる   発せっれる言葉にふとわいた希望 前向きな言葉に失意を打ち消された なぜか素直に浸みてくる言葉に深層を探る 夢を打ち砕かれた身に添うだけだった 同情でも激励でもない静寂を破る一言だった オレもそうだったと無意識な飾らぬ言葉だった

響存

なぜひとは苦しむために生まれてきたのか なぜひとは哀しむために生まれてきたのか   ひとは苦しみを抱いてあがく ひとは哀しみを堪えて黙す   なぜひとは苦しみに苛 (さいな) まれるのか   なぜひとは哀しみを滲ませるのか   ひとは苦しみからは逃れられない ひとは哀しみを静かに受け入れる   なぜひとは辛苦を舐めながら生きるのか なぜひとは悲哀を抱きながら生きるのか   ひととしていることの拒めない執着 ひととしてあることの確かな証明   なぜひとは辛苦も挫折も辛抱するのか なぜひとは悲哀も苦悩も甘受するのか   ひとは弱きものであり愛おしき存在である ひとは独りであるがひとりでは決してない   ひとは語り慰め合う ひとは涙流し抱き合う   ひとは辛苦を誰かと担い合う ひとは悲哀も誰かと分かち合う   ひとは響き合う誰かを求め続ける わたしもまた響き合う誰かを求め続ける ひとはそれを愛というらしい   〔 2025 年 12 月 13 日書き下ろし。悲哀こもごもの人生の意味を問う〕

雪遊び中止

あしたね こうえんでゆきあそびするんだ だからね たくさんゆきがふるといいな だれもまださわってないふかふかのゆきにね おかおをつけておめんにするんだ おいかけっこしておもいっきりころぶんだ ゆきがっせんもしたいな おおきなゆきだるまもつくりたいな   こんやはこんなにふぶいてるね あしたはやむといいね だからはやくおやすみ   すごい すごい たくさんつもった ままはやくいこうよ   さむくないようにきてこうね ゆきがしみてこないようにきてこうね ながぐつもぬげないようにはくんだよ   きょうのゆきあそびはできません ゆきがふりすぎてあるきにくくなったの だからほーるであそびます   えっえええええっ! ゆきあそびってゆきがたくさんつもったからするんでしょ こんなにつもっていたらなんでもできるよ どんなことをしたいかたくさんかんがえてきたよ あったかくしてちゃんとあるいてけるよ どうしてこうえんにいけないの どれだけのゆきならあそべるの おしえて 保育園の保育士は答えられない 最高の遊びのロケーションすら煩わしいだけだ そこまで思いっ切り遊ばせられない 雪まみれになった後始末に終われる 手間がかかることはしたくない だたそれだけの理由で中止になる   保育の中味が簡素化されていく 保育は効率と負担の軽減が優先する 保育の方針や目標は形骸化し忘れ去られる 保育は子どもが阻害されてゆく ご都合主義の保育士たちが幅を利かせる   つまんない そういったらいやなかおをされたよ ままはしかたないねって いまからあきらめることをしつけられる   ままは黙ったまま不信感を強くする だってお外遊びを大いにさせますって噓! 北国の幼子の集団遊びはこうして消えてゆく   〔 2025 年 12 月 12 日書き下ろし。こんな風景があったとか〕

運転を回避

朝から積もりそうな雪だった 妻の通院にあっしー君を担った 帰路前方も霞んで吹雪いてきた 車の前方のセンサーに雪がかぶり機能停止を知らせる 感度のいいのは結構だがこの程度では支障を来す   自宅の駐車場から電話した 若年性認知症の研修をキャンセルした 知人に吹雪き模様を伝え運転の不安を伝えた 隣町だがいつも荒れる地域だ 黄昏時のグレーな色合いが雪にまみれる   車の運転に臆病になるのは滅多にない 白内障で視力が落ちたときは慎重になった 檜山管内江差町からの帰路夕闇は中山峠を包んだ 往復 450 ㎞ 10 時間のドライブだった 翌日右目の白内障を手術した   明日も一日中雪模様の天気だ 送迎の車を出すには難しいかも知れない 師に出勤の判断を明朝することをメールした まだ既読にはなっていない 週一の出勤だが運転手が不安ではまずい   積もりそうな雪がしんしんと降り続く さっき帰りがけにした雪寄せはもうチャラになる 締め切りを抱えた原稿は昨夜脱稿した 気分は帰って雪見で落ち着く 北の街はこうして静かに年の瀬に向かう   〔 2025 年 12 月 11 日書き下ろし。ママさんダンプをもって車の周りの除雪に行く姿が窓越しに見えた〕

息苦しさ

突然息苦しくなる 慌てて息を吸い込む 呼吸機能の低下なのか 時々起こる生きることへの抗いか   いまも息苦しさを覚える 職員室の異様な空気に息が詰まる 来客は空気を察して入るのを躊躇する 空気の中に生息するのは学校という澱か   いまだ生きづらさに息を吐く まだ始まったばかりだというのに 学校という名の矯正施設に息が詰まる 勉強が苦手だとレッテルを貼るシステムか   いまも生きにくさに息を凝らす 存在を消すことで護るしかない 級友という名のいじめ装置が稼働する 見て見ぬする嘲りに目線を下げるだけか   いまさら馴染まぬことに息がはずむ 無関心だった存在に注目される いじめアンケートは功を奏した 対応の是非は当事者抜きの形式か   いまも苛まれる苦しさに息が切れる トラウマだと知っても息は抜けない なぜという疑問は慰めにもならない 過去との決着は赦しにしかないのか   〔 2025 年 12 月 10 日書き下ろし。いじめにあい、過去を払拭できずに苦しむ子らがいる〕  

折り合う

意見が分かれて折り合いを付ける 対等な関係なら問題なしか 不等な関係ならどうだろう 絵面ではさも歩み寄ったふうに見える ここに力の関係が働くのは自明の理だ 世の中煮え湯を飲まされる人多し   やっとの暮らしに折り合いを付ける 喰っていけるなら問題なしか カツカツならどうだろう 成長など望めぬ時代に幻想を抱かせる ここに貧富の格差が広がるのは自明の理だ 世の中冷や飯を喰わされる人多し   理不尽な処遇に折り合いを付ける 文句を言っても聞いてはもらえぬ 立ち回りの上手いものにはかなわない ここで我慢するしかないのは自明の理だ 世の中不満を呑み込み人多し   恨みつらみに折り合いを付ける 悔しさをいつまでも抱え込めない 相手は平然としてこちらを見ている ここで何をしても虚しいだけだ 世の中運が向かぬと肩を落とす人多し   不徳に見ぬふりで折り合いを付ける 不純に染まる己が悲しい 善悪を曖昧にする己が傷ましい ここで暴いても己にかえる 世の中狡賢くしなければ落ちこぼれる人多し   妥協という折り合いを付けられる 異論は価値観の相違と括られる 異見は見解の相違と棄てられる ここに居られるだけで良しとする 世の中体勢になびくだけの人多し   自問してよりよい折り合いを付ける こうすることが真意なのか こうしなければ堕落なのか ここが自身を生かす岐路と知る 世の中たった一人でも歩き出す人…少なし   〔 2025 年 12 月 9 日書き下ろし。一人からしか始まりはない〕

知とは何か

知識を蓄える いらない いらない いまなら AI が代わってくれる どう質問するか それをどう理解するか それだけのこと だから知識偏重時代は終焉する   知恵を授ける いらない いらない いまなら AI が答えてくれる 状況を正しく伝えればいい その判断が出来るかどうか それだけのこと だから経験値は役に立たなくなる   知性を高める いらない いらない いまなら AI が担ってくれる もっともらしい言葉を教えてくれる その場に応じた対応が出来るかどうか それだけのこと だから振る舞いだけを身につける   知力を育てる いらない いらない いまなら AI に力を付けさせる いろんな場面の対応を学ばせる 相手もまた同様な類いとなる それだけのこと だからもう比べられることはない   人間の知の活用が試される いらない いらない AI のデータベースは半端ない 情報収集・分析・解明は科学だ 凡人に最強の知的能力を授けてくれる それだけのこと だから行動力しか残っていない   人間の知はいかほどか いらない いらない 同じように考え動く だって相手も同じアプリを使ってる それだけのこと だからもう人間性は感情に宿る   いやいや感情もないでしょ いらない いらない 恋愛は互いを尊重し合う AI の優しく思いやり深い言葉に恋します それだけのこと だからもう生身の恋は仮想世界で叶います   〔 2025 年 12 月 9 日書き下ろし。世界で生成 AI を巡る論議が高まる。人間を辞める日は来るのか〕

共に在り共に織る

どれだけの人に出会ったでしょう 記憶に残る人は限られていく 印象に残る人はさらに絞られる そこにあなたがいた   出会いはいつでも衝撃を織るしかない インスピレーションが発する あなたがわたしであり続ける力となる わたしがあなたであり通す力となる 共に在ることを感受した   あなたとの人生を織る旅に出よう 語り尽くした物語にさよならする あなたと共に在ることを知らしめる 語り尽くせない物語が幕を開ける あなたと綴る人生を謳歌したい 語り尽くしてはいけない物語を描く   あなたとの喜怒哀楽を織り上げる 喜びも哀しみも分かち合う共存 感動も失敗も認め合う共感 苦悩も反感も受けとめる寛容   あなたと歩む時間を豊かに織る 希望や挫折もタペストリーに織り込まれる 愛も仕合わせも細かい模様に縦横に織られる 二人の紡ぎ出される物語は存在を問う わたしでよかったのですか あまたは問い返す わたしでよかったのですか 畏敬と感謝が確かな模様として浮き上がった   〔 2025 年 12 月 2 日書き下ろし。新たな「ひと物語」を書きたい〕

気負わずに淡々と

気負わずに成せるは難し 事への熱情が揺れる 始末への集中は時に途切れる 期待と威圧をあびてたじろぐ ひたすら信じるところを注力する 平常心は慰めにもならない   気負わずに為せるは難し 汗かかずして事は動かない 知恵を絞らずして事は進まない 思惑通りにいかぬ事を覚悟する 瞬時に決断を求められる 平常心はクールダウンを促す   気負わずして淡々と事を成す 経験値が解決の策を見出す 先見知が予測を鮮明にする 指導力が結束を強める 責任を重圧にせず分かち合う 平常心は焦燥と反作用する   冷静沈着な仕事への丁寧なアプローチ 意思統一する仲間の熱きチームワーク 目的を押し進める個々のチームプレー 個の能力で醸成される予想以上のチームパワー 成果を共有するチームビルディング   気負わずして淡々は理想のスタイルか 醒めぬ情熱を冷まし達成感へ誘う自己評価 次へのステップアップを準備する自己覚醒 チームメンバーを誇示する他者承認   〔 2025 年 12 月 1 日書き下ろし。仕事への熱きおもいが共有されたとき人は予想以上の力を発揮する〕

忌憚なく

はばかりなくもの申す ズケズケと欠点をあげつらう 耳の痛いところを突いてくる 達者な口から言葉がほとばしる 反論にも持論で素早く返す 付け入る隙なく意気揚々とする   遠慮することはない 図々しく振る舞う 我が物顔にして威圧する 容赦なく言葉で責め立てる 躊躇すればせきたてる 従順さを常に求める   忌憚なくを取り違える 勝手気ままに我を通す 正論だと異論を排除する 蔑みの言葉は先鋭化する 奥ゆかしさは微塵もない 追従しか選択肢はない   忌憚なく意見した 身の程を知らぬだけに抗う 知見の貧しさを追及する かばう言葉はその体をなさない 論破されれば激高する 小さな器に亀裂が入る   忌憚ない意見を拝聴した 受け入れるだけの度量を示す 感情を抑えて理を優先させる 言葉に敬意が滲んでくる 共感を覚えて理解を深める 互いに尊重する空気を醸し出す 〔 2025 年 12 月 1 日書き下ろし。忌憚という言葉の意味を確かめる〕   【忌憚 ( きたん)】はばかり,遠慮すること。普通,下に否定の語を伴って用いる。  

そこまで

諦めの座標軸 右でも左でもない 中途半端な思考停止 これ以上先には進めない そこまでか   可能性の座標軸 上でも下でもない 挑まずしての気力停止 これ以上先は見込めない そこまでと   思想の座標軸 右でも左でもない 日和っただけの対立停止 これ以上先はみっともない そこまでか   共存の座標軸 上も下も左も右も 唱えるだけで実現停止 これ以上先は望む術なし そこまでも至らず   屈辱の座標軸 上でも下でもない 打つ手ない反撥停止 これ以上先は見通せない そこまでかと   排斥の座標軸 右でも左でもない 優劣をつけて公平停止 これ以上先は憎むしかない そこまでか   差別の座標軸 上でも下でもない 嘆きしかない改革停止 これ以上先は目をつぶる そこまでかと   共生の座標軸 上も下も左も右も ブレるばかりで空論停止 これ以上先は目に余る そこまでも至らず   尊厳の座標軸 上も下もない 右も左もない 全ての人間への弾劾停止 これ以上先は求めない そこまでに力尽きてはならぬ

巻き込まれる

人様のことです 関わりません 関わりたくないです 構わないでください   人様のことに口出ししません 相談などされても困ります 知恵など何もありません 期待などしないでください   人様のことです 自分事ではありません 恩着せがましく閉口します ネチネチ言わないでください   人様のことに立ち入りません 尽くした手間は無駄でした 無駄にする時間はありません もう顔を出さないでください   人様のことです 失った信頼は戻りません 難題を持ち込まれても困ります 赦しを求めないでください   人様のことはこりごりです 結果はあなたの怠慢でした いまは自分事で手一杯です 二度と現れないでください   思い通りにならないのは世知辛さ 信じて裏切られるのは善良さ 拒んでも拒みきれないのが度量 人様のことに巻き込まれるのが人情か 〔 2025 年 11 月 30 日書き下ろし。巻き込まれながら人は年を重ねる〕

母への道

手稲の金山に母はいた 認知症を患い老人ホームに入れた 手稲に住む妹から近いという施設だった 石狩の女子大の講義の帰り道 母に会いに行った ベッドの脇で学生のレポートを読んだ 反応はなかったがそばにいた 時には伸びた手足の爪を切った   園の行事の度に妻とも通った 森本のゼリーがお気に入りだった 介護士にお願いして食べさせてもらった 食欲は旺盛だった 介助すると舌を伸ばして催促した 母の最後の週は枕元でいた 締め切りの迫った論文を書いていた 朝方巡回に来た介護士が脈がないと告げた 母に黄泉の国から戻るよう耳元で叫んだ 2014 年 3 月 30 日朝 6 時過ぎだった   今日数年ぶりに妻と長女と国道を走った 葬儀をした葬儀場を通り過ぎ想い出を語った 内輪の葬儀は常識破りの賑やかさだった 読経もなく娘のピアノの演奏がバックに流れた 妻も子も孫も母との想い出を語った 食事の後母の大好きなカラオケに興じた 妹が用意した景品に一喜一憂しながら母を偲んだ   金山に通じる道路を左に見て過ぎた 訪問の帰りに立ち寄ったアイスクリーム屋を探した 孫が喜んで食べていた情景を妻は語った 小樽銭函に家移りする娘の家に行く途中だった グランドピアノが玄関口からは搬入できなかった 昨日重機で持ち上げられてベランダから入った 3階のリビングに鎮座するピアノは安住の場を得た 16の時に買って45年は娘と共にあった そもそもは母が初孫にピアノを買い与えたことに始まる 高台のベランダからは銭函の街並みの先には海が見える 防波ブロックに白波が激しくぶち当たっていた 石狩湾を囲むように海洋に風力発電の風車が白い姿で立ち並ぶ 夏の景色を想像しながら灰色に化した冬景色に見入った ただ冬空に満天に降る星の光をここから見たいと欲した   短い滞在時間だったが陽の落ちるのは早い 手稲から札樽道の高速に乗った 大谷地で降りて自宅まで所要時間 50 分だった 妻と娘と一緒につかの間でも母を偲ぶ刻を愉しんだ   〔 2025 年 11 月 29 日書き下ろし。慕情に心動いた〕

弥縫(びほう)する

取り繕うこと多し 人は些細なことで失敗する 恥ずかしさを誤魔化す 人はつまらぬ事で失言する 言い訳をして体裁を繕う 人は貧しい知見を晒す 知ったかぶりを逸らす 人は根も葉もない醜聞を楽しむ 妬みを見せれば話題を変える 人はよく欠点をあげつらう 矛先が向かぬよう立ち回る   取り繕うこと多し 根拠の薄い品定めをする 人の見る目のなさを悔いる 迷ったあげく判断する 人の意向を汲めず落ち込む 力量を過信して突き進む 人の批判は誰かのせいにする 責任を回避できねば頬っ被りする 人の非難には知らんぷりする   人は誰しも失敗する 素直に認めぬのはなぜか 人は取り繕うことで対面を保つ 弁解を容認する関係に甘える 人は補い合わせてつながる 度量の持ち方が関係を決める   ※弥縫(びほう)補い合わせること。失敗や欠点をとりつくろうこと。   〔 2025 年 11 月 29 日書き下ろし。弥縫という言葉が気にかかった〕

寛容と共生

恵まれていれば多少のことに目をつぶる 面倒に巻き込まれたくはない 余計な干渉はされたくはない 誰が何をしようが関わらない これを寛容という名で包み込む 誰からも批判はされない それどころか評価されて苦笑いする   恵まれていれば暮らし向きは心配ない 他人に関わることも最小限にしておく 誰かとつるんで何かする気などさらさらない 多少の施しは体裁を繕うだけのことだ これを自律という名で包み込む 誰からも羨ましがられる それどころか憧れられて照れ笑いする   恵まれなければ暮らし向きに事欠く 一人では不安がつきまとう 誰かの助けがなければ難しい だから共生という名で包み込む 誰もが助け合いと支え合いを求め合う それどころか共助を強要されて難渋する   恵まれなければ暮らし向きは傾く 働けども恩恵薄い みんなが不満を口にして苦労する だから共存という名で包み込む 誰もが生きやすい社会は形骸化していく それどころか搾取をされて泣き寝入りする   誰が寛容になり得るのか 恵まれない境遇を嘆くことを忘れたか 同じような境遇にいることへの慰めか はたまた寛容という言葉で不平を黙らせるのか   誰が共生を唱えるのか 恵まれない境遇を共に嘆き合うのか 同じような環境にいる者への幻想か はたまた孤立を拒む言葉として騙すのか   寛容な社会とは忿怒への抑制か 懐疑しよう 共生社会とは貧困者への対策か 解明しよう 寛容も共生も富める者たちの支配か 警戒しよう   〔 2025 年 11 月 28 日書き下ろし。耳ざわりのいい言葉の裏を考えよう〕

やります

やりますやります 何やるの 口先だけでは伝わらない 言葉が透けて飛んでゆく 何をするのかはっきりおっしゃい   できますできます 何するの 意気込みだけでは信用ならない 言葉が虚しく消えてゆく 何もできないのなら黙ってらっしゃい   あれもこれも 何のこと 並べるだけでは役には立たぬ 言葉は飾りと成り下がる 何でもごっちゃに突っ立てらっしゃい   いつでもどこでも 何のこと 人手もないのに無理だとわかる 言葉は人寄せ道具に使われる 何でも儲ける算段棄ててらっしゃい   ほんとほんと 何のこと 怪しいだけに眉に唾する 言葉は噓をつかされる 何が何でもの魂胆見てらっしゃい   〔 2025 年 11 月 27 日書き下ろし。言葉はその人なりを表すのか〕

わたしは正しい

何を持って正しいとするのか 相手のミスで責められるのは筋違いだ 間違えることはないと確信している 反省すべきなにものもない 決して咎められることはない わたしは真っ当だ   何を持って違うと言うのか 相手の考え方を良しとするのは偏っている 正しい考えにそった行いと確信している 批判されるべきなにものもない 決して意を覆すことはない わたしは正しい   何を持って不遜というのか 相手の態度を無視できなかっただけだ 相手の身になった指導と確信している 非難されるべきなにものもない 決して中傷されることはない わたしは信じる   何を持って倫理というのか 幼子への敬意を払わなかっただけだ ルールを身につけねばと確信している 否定されるべきなにものもない わたしは正しい   何を持って怠惰というのか 幼児は好き勝手に行動しているだけだ 自由保育の方法だと確信している 裁量されるべきなにものでもない わたしは引き下がらない   何を持って保育というのか 幼子への慈愛は邪魔になるだけだ 叱って泣かせてもいいと確信している 追及されるべきなにものもない わたしは正しい   何を持って共育というのか 慕っているのか疑ってるだけだ 無視や威嚇もないと確信している 反目されるべきなにものもない わたしはめげない   何を持って仕事というのか 労働に見合った処遇を受けるだけだ 苦情がなければ適当にと確信している 配慮されるべきなにものでもない わたしは正しく保育士だ   〔 2025 年 11 月 26 日書き下ろし。保育士の様々な言動幼児の不安を見る〕