89歳の誕生日に思う
寡婦になって50年近くになる
二人の子を残して夫が旅立った
順風満帆の暮らしが暗転した
一念発起して商売を始めた
軽トラックを買い農家を回った
行商の儲けよりも人儲けが一番だった
暮らしはカツカツでも信用を売った
世話好きで人情味が深かった
恩には誠意で返した
店を構えると足繁く通って来る人がいた
手作りの総菜は評判もよかった
憂さ晴らしや愚痴をこぼしに来る人もいた
世間話に花を咲かせてお茶する寄り合い場にもなった
5月は山菜のシーズンだった
夜も明けぬ早朝浜益やら富良野やらの山奥に分け入った
かますの袋にいくつもタケノコやら蕗を取った
自衛隊払い下げのジープが林道を走った
店に帰ると茶飲み友だちの手を借りて手早く処理した
鮮度のいい売り物になった
仕事でつながった人たちはいまも慕ってくれた
お陰様でいままで商売を続けられた
いまでは息子夫婦が店を切り盛りしている
コロナで市内の飲食店もすっかり冷え込んだ
世知がない時代でも暮らしていけるだけありがたい
商いは飽きないともいわれるがよく続けられた
景気に左右される小さな商売でも地道に続けられた
これもお客さんからの信用があっての商いだった
二人の子を育て上げたことも幸いだった
86の時に運転免許を流した
働きずくめの身体が悲鳴をあげた
89にもなれば痛いところも曲がらぬところも満載だ
薬の効能も医者より詳しい
動かねば衰えるだけといまも菊作りに精を出す
店番がいまは大事なお勤めとなった
ご近所さんも親しい人たちもみんな高齢者になった
立ち寄って来る人も少なくなったのが寂しい
何か作っても張り合いがなくなったのがいっとう寂しい
鬼籍に入って三途の河原で待つ人も増えてきた
病気とは仲良くしたくはないがだましだましきた
89歳の誕生日
負けず嫌いと人情だけは衰えを知らぬようだ
89歳の誕生日
おしゃべりの時間はいまは貴重だ大事にしよう
89歳の誕生日
よく生きたことを感謝する日
師共々感謝をこめて
ひでこさん誕生日おめでとう!
〔2022年5月20日書き下ろし。1年ほど前に師に紹介されていまは入り浸るひとりとなった。出会いに感謝。手作りのランチに感謝。これからもよろしくお願いします〕