真夜中の録音

詩集「情緒は私を支配する。論理よりも強く」(題名は伊藤整から引用)

掲載している61編の詩の朗読の録音を頼まれた

民生委員の研修で教材として紹介した詩編だ

7回も受講している親しい知人からのリクエストだ

目で詩を追うよりも心が揺さぶられる

生の朗読を味わう機会のない仲間に聞かせたい

留萌管内での初任者研修が終わった後約束した

24日稚内でようやく14管内での初任者研修のピリオドを打った

 

25日から26日に日付が変わる

静寂な真夜中ひとり詩の朗読に集中する

突然ストーブの燃え出す音がする

録音をストップして練習を繰り返す

ようやく再開

レコーダーのスイッチを入れる

今度は壁伝いに灯油を供給するモーターが動き出す

またも中断

時計はすでに1時を回っていた

 

睡魔を追っ払う目薬をさす

長い詩を読み始める

終わりかけたそのとき噛む

苦笑いするしかない

最初からやり直し

滑舌も悪い

発する言葉は余所行きのように気取っている

 

詩の朗読には相手がいないことにはたと気づく

繕った感情ではなく相手に伝える場の情感がない

地域の実情や会場の雰囲気そして参加者の意欲

敏感に感じてその場で展開のシナリオを組み立てる

参加者の関心や意欲をうなづきから観察を続ける

61編から15編程度の詩を瞬時に選択する

14回の研修は導入から展開まで違って当たり前だった


真夜中にひとりいて苦笑いは続いた

短い詩でも出だしから躓く

単語ひとつでも疎かにできない

微妙な感情移入も抑揚や間の取り方で違ってくる

文章としての流れもある

情景を思い浮かべる想像力を刺激しなければならない

共感をもたらすには語りの心地よさも必要だ

 

噛むたびに読み足りなさと朗読の難しさが身にしみる

レコーダーに残る失敗を告げる苦笑いする声

独り相撲のような録音は静寂(しじま)の中で続く

約束を果たすまでにはまだしばらくかかりそうだ

午前2時を回った

 

一仕事終えて為すべきことがない男

大事な約束を果たすだけの男

これからも午前零時の男になる

 

[2023326日書き下ろし。滑舌が悪くなった男には朗読は簡単ではない。だからこそいま残された力を存分に使い果たすしかない]


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