沈黙の電話
時々無言電話がかかってきた
妻が出ても何も話さず切れてゆく
不審がってきてもすぎ切るようになった
数ヶ月過ぎると忘れてしまった
叔父から祖母の訃報が入った
父との確執から叔母との縁は切れていた
死に目にも会えず葬儀すら出られなかった
叔父からの電話はかなり後からだった
平成8年(1996)の今日が命日だった
あまりにもひどい仕打ちに打ちのめされた
祖父母に愛情深く育てられた
半端ない可愛がり方に周りは苦言をもらした
孫をどんなに可愛がっても面倒はみてはくれないよ
その通りになった
生涯の負い目を感じながら位牌のない仏壇に手を合わせる
従姉妹らには供養はできないだろう
あるときふと妻が思い出したようにつぶやいた
あの無言電話は八重子ばあちゃんだったのではと
耳が遠くなった祖母には全く音は聞こえない
認知症を患っていた祖母は唯一覚えていた電話番号
何度もダイヤルを回しながら孫を呼び出していたのだと
そのおもいに応えられずにいた自分を恥じた
祖母不幸をした自分をいさめる日となった
信仰深かった祖母の拝む後ろ姿を想い出す
畑と縁の切れなかった祖母の大きな手を想い出す
うまい料理をつくった祖母の味の才覚を想い出す
涙が流れた
〔2023年6月29日書き下ろし。ひたすら悔いが残る別れ方だった。今月は祖父母の命日月。二人の慈愛を噛みしめる大事な時間をいただく〕