ベンチのある風景
秋風が立ってきた
ベランダから向かいの小公園が見える
網戸越しに人声が入ってくる
ひとつのベンチが置かれている
ベンチは老若男女の楽しき会話の場となる
猛暑の今夏
幼子を守するママともたちはベンチで噂話に花を咲かせる
日傘を差しながら老女たちはベンチで過去を懐かしむ
若いカップルは好きという感情をベンチで温める
子どもたちも遊び疲れてベンチに尻を預ける
ベンチが置かれているということ
しばし休める空間を提供する小道具
世間話を盛った空間を料理する小道具
見知らぬ者を結ぶ空間を演出する小道具
小さなコミュニティの空間を意識する小道具
日常の風景に当たり前にある小公園のベンチ
近所の小公園は憩う場とは真逆だった
夏草で足下が覆われ訪れる者は全くいない
需要のない公園の整備にかけた大枚の税金は朽ちてゆく
役所仕事の作ってやった感だけが取り残される
侘しい公園に置かれたベンチは飾り役を終えてゆく
さて我が心のベンチはいかがか
誰かが座る場所はあるのだろうか
誰もが憩う場所ではきっとない
誰かが座る指定席になっている
誰もが憩うほど心にゆとりがなくなった
誰も座ることが出来なくなったら
…それだけの人間だったのかと
[2023年9月10日書き下ろし。9日は休稿。ベンチがある日常の風景がふと気にかかった]