始まりの記憶

今日は父の日だった

 

小学校入学の日

学校の玄関前にオンコの大樹が居座っていた

常緑針葉樹で秋には甘い赤い実をつける木だ

 

長男の入学式に父は出た

まだ28歳の若さだった

息子は目を盗んで木に登った

太い枝に太ももが挟まり抜けなかった

泣きながら声を上げて父を呼んだ

父は笑いながら抱き上げてくれた

大勢の前で父に助けを求めた

恥ずかしさを知った始まりだった

 

近所に年上で悪ガキがいた

弟が意地悪をされた

兄は猛然と抗議した

なんと強い兄なのかと弟は思っただろう

窓から外をうかがう父の姿があった

ここで逃げたら父に叱られる

必死のおもいで挑んだ

強い者も達者な口にはかなわず退散した

腕力だけではないと知った始まりになった

 

小学5年の時虫歯を抜く

母は父を監視につけた

診察にいちいち質問しては治療を拒んだ

手に負えないと母は判断した

その日突然の宣告で覚悟を決めて抜かれた

それ以来歯の治療は一人で行けるようになった

黙って男の威厳を示した予科練帰りだった

 

子どもの頃の事件は父子の心を育てていた

子の後ろ姿を見ていた父の視線をふと感じた

 

2024616日書き下ろし。6月の第三週の日曜日、父の日に上の娘は日本酒を、下の娘はアップルペンを贈ってくれる。ペンは先にお上がりでもらったiPad用だ。お絵かきできるというので、ネットで中古を買ってもらった。来週届けるという。ありがたいことだ。彼女らに父とのどんな始まりがあったのだろうか?〕


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