友とは共に在る
学生時代の唯一の友を見舞う
友はベッドの上でかっと目を見開いた
言葉にならぬ声を強く吐き出した
どうしてここにいるんだ
驚きと懐疑が眼力となった
友の伴侶から肺炎を起こして発熱を知らされた
心は急くばかりだった
白内障を手術した眼科は混み合って1時間半待った
13時過ぎにようやく呼ばれた
会計までかかった時間は15分程度だった
先だって線状降水帯が道東を襲った
釧路行きJRは止まったまま復旧の目処は立っていない
都市間バスは予約制で果たして空き席があるか不明だ
何かあれば着替えも必要だ
車で釧路まで走ることを決めた
帰宅して軽く昼を食べ準備を終えて14時10分過ぎ出た
高速道路は先週金曜日帯広から戻ったばかりだった
ナビの地図には新しくできた釧路市内までの高速道は表示されていない
間違えて阿寒で一度降りまた乗り直した
釧路西で降車してコンビニに寄って用を足した
所要時間は3時間33分を要した
特急列車よりも速かった
ここから目的地を設定した
病院まで5分足らずの距離だった
暗くなった病院玄関前で彼の妻と姪が待っていた
急ぎ病室に向かう
透析を終えてベッドにいた
熱は下がったと伝えてくれた
面会時間は1時間しかなかった
でも会えた
壮健だった体躯はすっかり萎えてしまった
久しぶりに再会した彼の目は大丈夫だと言わんばかりだった
最悪の想定は見事に裏切られた
彼がいて学生時代を共に謳歌できた
彼がいて人生の同伴者として生きてこれた
彼がいてこそ友という存在の重さを知った
彼という友が優しさと寛容を教えてくれた
彼は唯一の友であり私の誇りなのだ
友は良き伴侶に恵まれた
彼の実直な人柄が彼女により磨かれた
病魔に襲われて20年
夫を支え励まし続けてきた
心労が重なるなか厳しい状況に毅然として立ち振る舞う
秋刀魚とイカの刺身を用意したという
いつものあたたかい心遣いに感謝しながら
いまなら戻れると判断した
危ないと引き留めてくれたが友に会えただけで嬉しかった
道路工事の為に時間が規制された
おかげで帰路は空いて走りやすかった
TOYOTAYARISのエンジンも快調だった
夜道は視界に道路しか入らず集中しやすかった
白内障の術後視界が明るくなったのも幸いした
快適に走って3時間20分で高速を降りた
釧路を往復して600㎞余だった
江差は往復500㎞弱だったが10時間を要した
なんと近くなったことかと驚いた
高齢者の無謀運転と非難されそうだが反論はよそう
ただ悔やまれるのは電話でもっと話べきだった
まだ話すことが出来た時分友は私を気遣っていたという
そういう男なのだ
生きてくれと祈らずにはいられなかった
悔し涙が出た
〔2025年9月30日書き下ろし。T.Nとの再会の顛末を記す〕