貧しさゆえに

貧しさゆえに

父も母もよく働いた

母の厳しさと優しさが

心を貧しくしなかった

父の寡黙と男気が

心の貧しさを鍛えた

 

ひもじさゆえに

父も母も身を粉にした

母は子らに献身した

子らは明るさに包まれていた

父は鉄の火を浴びていた

子らは厳しい仕事を思い描いた

ひもじさは働く尊さを教えた

 

卑しさゆえに

父も母も勉学を励ました

母は高等小学校卒だった

子らに戦時中の生き様を語った

父は旧制中学3年で中退した

子らに予科練のことは一切話さなかった

卑しさは向学心を植え付けていた

 

人の良さゆえに

父も母も人に情けをかけていた

母は苦しみを知るだけに手を差し伸べた

子らは包容力の中で健やかだった

父は水害の夜家には戻らなかった

子らは泥水のなか救助していたと後日知った

人の良さはボランタリーな生き方として継承した

 

凡人なるがゆえに

父も母もただの人だった

母は我慢強く子育てした

子らは涙する母を慰めた

父は知的で情感豊かな本心を隠した

子らは恥辱を味わった青春を知らなかった

凡人なるがゆえに偉ぶることもなかった

 

悲しさゆえに

父も母もいつまでも忘れなかった

母は妹の命日をいつも悔やんだ

子らは50周忌を終えたいまも供養する

父はすぐにバイクを棄てた

子らは「努力だ」と娘に宛てた直筆を悼碑に刻んだ

悲しさゆえの報われぬ深さをいまも忘れない

 

生きているゆえに

父も母も生き続ける

母は人懐っこい笑顔で語りかける

子らは母をいまも愛しむ

父は三船敏郎もどきいい男だった  

子らは父のダンディーさをいまも懐かしむ

生きているゆえに慕情を熱くする

 

20251223日書き下ろし。いつまでも父母を慕う〕

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