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現代昔話 みにくい顔

むかしむかしあるところに不思議な鏡がありました むかしは鏡を持っている家など数えるほどでした 見かけはごく普通の鏡のようでした   ある日女主(あるじ)が鏡を見てギャーと悲鳴を上げました 近くにいた人たちがビックリして女のところに行きました 女は怯えながらここにお化けが出たと鏡を指しました 鏡を覗いても見ても自分たちの顔が映るだけでお化けのなどいません 「鏡にはなにもいませんよ」 女主は恐る恐る覗いて見るといつもと変わらぬ自分の顔でした 安心したのを見て駆けつけた人たちは戻って行きました それにしても朝っぱらからどうしたとういうでしょう 鏡が呪われているのだと女は思い鏡を捨てることにしました 鏡を割るともっと恐ろしいことが起こりそうな予感がしたからです   命じられてその鏡を捨てにいった人はなぜか捨てるのをやめました なにせ高いものですから内緒にしてこっそり自分の家にもって帰りました 女主には何食わぬ顔をして山の中に穴を掘って捨ててきたと言いました 女主は安心してご苦労さんと言って駄賃をあげました   すばらくたった頃です 家に隠していた鏡を見て女はビックリしました そこにはみにくい女の顔が映っていたからです 女主が言ったようにこれは呪われた鏡だとすぐに山に捨てに行きました このことは一切誰にも知られぬようかたく口を閉じてしまいました   ある日女の子が山に入って薪(たきぎ)になる枯れ枝を拾っていました ふと目を上げると光るものがあることに気づきました 太陽の光で反射していたあの鏡です 女の子は宝物を見つけたように嬉しそうして鏡を胸に抱いて家に帰りました 可愛い女の子が映る鏡がとてもお気に入りになりました おかあが鏡を見つけました 「どうしたんだ」と尋ねました 見つけた様子を話して誰かがわざと捨てたものだとわかりました おかあはどこからか盗んできたのではと不審に思っていたのです 捨てたものを拾ってくるのは決してわるいことではありません おかあもその鏡に自分を映して 「こっらたにめんこくない顔だべか」とビックリしました そこに意地悪な近所のおばさんがやってきました 目ざとく鏡を...

へたれようと

へたれようとも 求められてこそ己の資質を知る 求めていけばこそ相手の懐の深さを知る 夢の通い路に立てば協働の道となる   へたれても 求められてこそ己の可能性を知る 求めていけばこそ相手の本気度を知る 夢の通い路を見れば実現の道になる   へたれようとも 求められてこそ己の真意を知る 求めていけば相手が胸襟を開く 夢の通い路に光明がさし道となる   へたれても 求められてこそ己の使命を知る 求めていけば相手の魅力を知る 夢の通い路に為すべき事が道になる   へたれようとも 求められてこそ己の志を知る 求めていけば相手の情熱を知る 夢の通い路は二人の生き様を道にする   へたれても 求められてこそ己の不甲斐なさを知る 求めていけば相手の立ち直る勇気を知る 夢の通い路は決して閉じることなく道に誘う   へたれようとも 求められてこそ己の波瀾万丈の人生を彩る 求めていけば相手の波瀾万丈の人生をも彩る 夢の通い路は生身の舞台に立つ二人の姿が本道となる   〔 2025 年 3 月 30 日書き下ろし。たとえへたろうとも、それをはね返す二人がいる。人生は最後まで波瀾万丈を演じ続ける舞台だ〕

現代昔話 やさしさ禁止令

昔々あるところに変わり者の殿様いました   人の言ったことを全部反対にしてしまうのです ご飯がおいしいというとまずいというのです 雨が降っているとぬれていても降ってないと強情を張ります 花がきれいに咲いたといえばすぐに枯れて散ってしまうと悪態をつきまます まるで悪ガキのような殿様でした   そこで殿様を困らせてあげようと知恵を集めました 世の中思いやりややさしさが足りないと困ってしまう だからみんながやさしくなるようにお殿様が命じてください   あまのじゃくのお殿様はさっそくやさしさ禁止令にしたのです みんなグルになってお殿様にはやさしくしないようにしたのです 話すとお殿様はみんな反対にしてしまうのでそこも利用しました あるいは黙って動くことにしました   ご飯はまずいものを出しました お殿様がこれはまずいというと本当に美味しくてよかったですね お風呂はぬる目にしました お殿様は冷たいというと熱かったですかと答えます 朝起きて着物を着せるときも裏表を反対にして着せました お殿様が怒ってしまうとよくお似合いになりますよと言いました お酒の相手には老人ばかりを選びました お殿様はもっと若いのはいないのかというと皆さんお若くて美しいと言いました   ある日城下の人たちがやさしさ禁止令を守っているのか見に行きました 殿様が来るというので町の人も思う存分意地悪をしました 馬に乗ってきたお殿様を見ると馬が可愛そうだと泣きました 馬から下りるとすかさず悪口三昧を浴びせました しまいには馬糞まで投げてきました あまりにもひどい仕打ちをされて怒り心頭に達しました   そのときです 男の子がひとり殿様の前に出てきて言いました どうしてこんな馬鹿げた命令をしたの やさしくしないなんて人間をやめるとおんなじだよね したくもないのこうして誰かまわずにいじめる事って楽しいの そんな世の中にしたいって本気でおもっている おらはいやだ 人を馬鹿にしたり汚い言葉を使うなんてまっぴらごめんだ だからお願いします やさしさ禁止令をやめてください 男の子は涙を流しながら訴えました...

現代昔話 こいこしかんばちいでいかせ

昔あるところにかわいらしい女の子がいました あるときおばあちゃんからお使いをたのまれました となり村までとどけてほしいと小さな荷物をわたされました これは何があっても開けてはならないよとかたく言いつけられました でも困ったときはこの荷物を開けなさい ふだんのやさしいばあちゃとはちがう強い言い方でした 女の子はともかく荷物をもってとなり村に出かけました   途中広い原っぱがあります 青い大きな空に心地よい風がふいてきました お使いにきてよかったなと思いました そこにウサギさんがひょっこり顔を出しました ねえそんな荷物を持ってどこに行くの となり村までおばあちゃんのお使いに行くの それじゃボクもおともしましょう   あれこんなところに林なんてあったのかしら 初めて歩く道でした 道は二つに分かれていました 右の方の道には「おかしい笑いの道」って書いてあります 左の方の道には「かなしい笑いの道」って書いてあります どっても笑うんだと女の子は思いました どっちに行くか選んでねとウサギは言います 「かなしい笑い」ではいやだから「おかしい笑いの道」にする   右の道を行くと突然もやがかかってきてま白くなりました 何にも見えないので女の子は心細くなりました するとふいに白いもやが晴れてそこに一軒のおうちがありました ウサギとそのうちの前に立ちました 中から白いキツネが現れました ウサギさんよきょうもまた人間の子を連れてきたね   キツネさん「おかしい笑いの道」を歩いてきただけなの ここはいったいどこなの ここかいおかしな笑いのキツネ村さ ここにきたらおかしな笑いをしなければこの道は通れないのさ だからお前はおかしな笑いをしなければならないんだ できなければお前の持っているお使いの荷物をもらって お前はここから出られなくなるぞとおどしました 女の子はビックリしました まさか自分がおかしな笑いをしなければならないなんて 一度もそんな笑いをしたことがなかったのです   ウサギは女の子に耳打ちをしました いやだそんなことできないと顔を真っ赤にして言いました それは変...

母を慕う

長く認知症で生きた 頑張って頑張って生きてくれた お疲れ様と朝方逝った   かけがえのない子らに母の愛は注がれた 甘苦を舐めた人生に子らが生きがいにした母だった ラーメン 1 杯を子らに分かち与えた母だった   とても情愛の深い母だった 利口に立ち回れず騙されもした実直な母だった いつも冗談で笑わせ美声で十八番を聞かせる母だった   夢を希望にした子を献身的に支えた母だった 見せぬ事の出来ぬ己の人生を悔いた息子がいる この世の別れにいまだ慕情の念に涙する息子がいる   出会いの縁に運命を感じる母子がいた いまという時を身命をかけて護ってくれた母がいた 期待に応えられず心配をかけ続けた息子だった   母に捧げるまことだけは揺るがない 母に手向ける合掌だけは感謝しかない 母が教えた人生訓がいまも我が身を護る   〔 2025 年 3 月 29 日書き下ろし。 2014 年 3 月 30 日に目を閉じた。母の愛の深さを感じる老境に入る〕  

失意の決断

何という試練を与えるのか 順風満帆は突然終わりを告げる 描いた夢は泡沫のように消える   何という失意を与えるのか 至らなさをつけ込まれ足をすくわれる 敵意は濡れた衣のように身を包む   何という苦痛を与えるのか 為すべき道は突然閉ざされる 熱きおもいは風船のように萎む   何という挫折を与えるのか 意気揚々とした自信は潰える 設計図は紙屑のように捨てられる   何という中傷を与えるのか 押しつけられた責任に憤る 人格は否定され因あるように非難される   何という屈辱を与えるのか 貶(おとし)められて職を辞す 真意は非があるように歪められる   何という決断を与えるのか 貧苦な者との因縁を断つ 子の護守は天命であると心に刻む   何という転機を与えるのか 悪縁との決着の刻に心澄ます 新たな旅立ちの日は自己回復であると胸を張る   〔 2025 年 3 月 29 日書き下ろし。 3 月末辞職した我が身を振り返る。失意は突然現実となる。それを超える夢を失ってはならない。それにしても兵庫県斎藤知事は驚異の粘りを見せて自説は曲げず辞任を回避する図太さに辟易する〕

現代昔話  なまけものおじん

昔あるところに怠けもんのとあだ名されたおじんがいました 仕事をさせてもすぐに放り出して逃げてゆく 言い聞かせても空返事ばかりでさっぱりやらない 口先だけはうまいおじんでたぶらかしても何食わぬ顔をしている 図々しいのは人一倍でよその家の夕餉に顔を出してはちゃっかり食べてゆく   仕事もしない 何もしないで するのはひなたぼっこと決まっている 腹が減ればどこかに家に上がり込んで食べてゆく 恥ずかしさなど知るよしもなく堂々と怠けている 誰になんと言われても薄ら笑いするだけで聞く耳持たない   あるとき村に悪い男たちがやってきた 村人を集めて食べ物や金ものを出せと脅した 村人はみんな怖がって震えていた そこに怠けもんのおじんがやってきた   そこのお前ゆうことをきかないと痛い目に遭うぞと脅した おじんは何のことかさっぱりわからず首をかしげた 悪党たちはおじんにさっさと金ものをもっとこいと命じた おじんはこの村は金もんなら鍋と鍬しかないと笑った 悪党たちはいよいよ怒りだした おじんはこの村によく来てくれたと笑顔で応えた 悪党たちは何を言っているのかさっぱりわからなかった   おじんは皆さんはいい格好をしている 口は悪いがなかなかの金持ちだ おらたちゃ貧しくて明日の食いもんもないありさま ここは貧しい者たちが慎ましくくらしている村だから 金になりそうなお宝なんぞあるわけないし 生まれてこの方見たこともない せっかくここまで来てくれたのだから せめて何か恵んでおくれと頼んだ   悪党の頭が呆れてしまった 盗人にきたのになんで俺たちがお前たちに恵んであげなきゃいけないんだ おじんはそれでもひるまず言った だって困っているのを助けるのが人間でしょ いままでさんざん金のあるところから盗んできたなら その罪滅ぼしをするのもいいんじゃない 一度だけでも人間らしくふるまったら きっといいやつだったと評判を国中に広めてあげるよ   悪党の頭は考えた この村には何も盗るもんはない ましてや貧乏人をこのまましておくこともかわいそうだ 恩を売ってこの村が少し...

現代昔話 うそつきじじい

🎵  指切りげんまん   噓ついたら   針千本の~ます   指切った   昔あるところに爺さんがいました 口から出任せ噓八百を得意げに話す爺さんでした 村人は面白がって大噓を聞いては大笑いしてました ともかくホントらしく言うので信じる人もいました 話し上手で人を喜ばすことが大好きな爺さんでした   その噂はお城のお殿様の耳に入りました どんなお話なのか聞いてみたいと思いました 貧しい着物を着て村人のような格好をして村に行きました よそから話を聞きに来たと知って爺さんは喜びました   とっておきだといってお殿様のことを話し出しました うちの殿様はとってもえばりんぼうでわがままかってな人なんだ 自分が気に食わないと思ったらなんでもほうりだしてしまうんだ こないだも奥さんがおならをしたのはゆるされないとほうりだした 家来が殿様よりも賢かったといってはほうりだした 魚の骨が喉に刺さったといっては料理を作った人をほうりだした 仕事が面倒くさいから好きにしろとほうりだした だから家来は好き勝手におらたちからたくさん年貢をとるようになったんだ 家来は取った年貢は噓をついてみんな自分たちのものにしたんだ 殿様のわがままのせいで家来はみんな太りだしたんだとさ   🎵  指切りげんまん   噓ついたら   針千本の~ます   指切った   ホントだホントだ お代官さまも太ってるしぜいたくな暮らしもしている 下のもんもみんないいもん喰ってるから腕っ節も強い おらたち百姓などかなうわけはない ホントだホントだ 殿様に追い出された奥さんの噂も聞いたことがある 殿様にいじめられた人にも会ったことがある そんな殿様に意見した賢い家来が追い出されたのもホントらしい ところでなんで爺さんは知ってるんだ   みんなはうそつきじいさんとかほら吹きじいさんとか言っているけど ホントはいろいろと世の中のホントのことがよく見えてるのさ 騙されているのはここいるみんななんだよ ホントの話が噓にしか聞こえなくなってるだけでなんだ ホントの嘘つきは家来ってわけさ 殿様...

Storyをつくる

幼児教育に関わる詩集の編纂をする 詩編を選び直す作業が終わった ようやく 80 編に収まった   悩ましいのは Story だ いままでも Story をつくった 小テーマごとに束ねる   詩集は「くるまれて」と決まっている 3 月中旬に一度編纂した カット写真をお願いした際欲が湧いた   再度選び直しをする ここ10年間の詩編を見つめ直した 幼児に関わる詩編の貧しさを知った   1月ある Blog に「夢織りし子らに」をアップした この詩編は「紙」にはなっていない 幼児と保育士に焦点を当てた詩集だった   幼児の内心を探求し子から学ぶことを1とした どのような興味や好奇心を持っているのか そんな言動から何を学ぶのかを探る   幼児に関わる仕事への向き合い方を2とした どのような喜びや悩みを持っているのか 職業人としてのあり方も問いたい   保育に関わる私という存在のあり方を3とした どのように社会や世間と向き合っているの 人としての生き方が問われる厳しさを知った   こうして書き出していくとようやく Story が見えてくる まずは一つひとつの原稿を3つの山にしよう さらに小分けする作業を通して Story が織られていく   調和された詩集に編纂されるにはしばし時を要する この作業ほど作る喜びを刺激されることはない どんな Story が生まれていくのか期待しよう   〔 2025 年 3 月 26 日書き下ろし。ようやく詩集の最終段階に入った。なにかすぐには終わらぬよう楽しみを奪われぬよう抗っていた自分を笑う〕

野心を抱く

野心を抱く 現状に甘んじることなく高見を目指す 自己評価はすこぶる高く密かに自信を持つ 他者評価のチャンスは逃さずアピールする   野心を抱く 現状を打破する打開策を弄する 自意識はすこぶる高く密かに批判力を付ける 他者への対抗意識は時と場を計る   野心を抱く 現状の認識を深く思慮する能力を養う 自己分析にはすこぶる力を注ぎ時間を厭わない 他者を出し抜くチャンスを常にうかがう   野心を抱く 現状の維持に不満を露骨に表さない 自己変容を求めてすこぶる研鑽に努める 他者への激しい敵愾心を静かに燃やす   野心を抱く 現状の改革にプランを錬って準備する 自己開発は実現をすこぶる信じて行動する 他者の信望と協働をしたたかに策する   野心を抱く 現状の問題を明確にして解決策を提示する 自己成長は崩すことなくすこぶる意欲を高める 他者を追い落とす非情さも鍛えなくてはならない   野心を抱く 現状の変革は一気に遂行してこそ成しうる 自己尊厳こそ最大の武器にしてすこぶる勇を鼓舞する 他者の地位を奪う目的に卑劣さを抱いてはならぬ   ※野心①現状よりもさらに高い権力・名誉・財力などを得ようとする心。ひそかにいだいている分をこえた望み。②(野の獣が人になれないように)なれ服さないで,害そうとする心。謀反の心。   〔 2025 年 3 月 25 日書き下ろし。野心を抱くという心を持ち合わせていないが、野心とは時に時代を動かす壮大なエネルギーに転化する。その人物はいまはいない。強欲だけ目に余る〕  

言葉が走る

連想ゲームのように言葉が走る 深く考えることなく言葉が走る 思考の先を見透かすように言葉が走る   話の展開を邪魔することなく言葉が走る 話の筋を見届ける間もなく言葉が走る 話の落ちに辿り着くまで言葉が走る   恥も外聞もなく抗うように言葉が走る 照れくささも青臭さも構わず言葉が走る 考察も洞察も吟味なく言葉が走る   素行の平穏さを破り言葉が走る 知欲の求めに逆らうことなく言葉が走る 書きたいという欲求のまま言葉が走る   成果を求める事もなく言葉が走る 評価に苦することなく言葉が走る 結果の是非を問うことなしに言葉が走る   老齢を問わず降りてくる言葉が走る 不思議な体現を感じながら言葉が走る 面白さを味わいながら言葉が紡がれる   〔 2025 年 3 月 24 日書き下ろし。 1300 編をようやく超えた。言葉を紡ぐことにいまは楽しみ以外何ものでもない〕

なるようにしか

なるようにしか 何もせずして吐くことば 変えようともしなかった過去 変えられなかった諦め     なるようにしか 責任回避のことば 変えようともしなかった不作為の過去 変えられなかった怠惰    なるようにしか 判断のゆるいことば 変えようともしなかった妥協の過去 変えられなかった甘さ   なるようにしか 弁解の余地のないことば 変えようともしなかった未熟な過去 変えられなかった無気力   なるようにしか 天命を待つことば 変えようとしてあがいた過去 変えられなかった現実   なるようにしか 動いて身を委ねることば 変えようとしてもできなかった過去 変えられなかった慚愧   ※慚愧(ざんき)元来は仏教語で,「慚」は自己に対して恥じること,「愧」は外部に対してその気持ちを示すことと解釈された。自分の言動を反省して恥ずかしく思うこと。   〔 2025 年 3 月 23 日書き下ろし。ふとついたことば。なるようにしかならない。そうかな〕

昔話を創作する

幼い子らに読み聞かせをする ただの爺さんの語りに耳を澄ます こんなに心躍ることがあろうか 唯一素直に子どもと向き合える至福の刻か   幼い子らの食い入る眼がたまらない ただの爺さんの語りに心を寄せて励ます 大学生との授業もなくなり教職は終わった 唯一肝胆に子どもと世界を創る無上の刻か   語り継がれてきた昔話ではいまいち物足りない 子どもとの福祉の授業では導入によく活かした でも授業ではなく読み聞かせという世界だ 唯一好機に子どもとの新たな昔話を創る無尽の刻か   聞き飽きた昔話に魅力を見出すことが出来るのか 度々アレンジする面白さを試して反応を見た 昔話の疑問や視点を変えた中味は子どもらを惹きつけた 昔話を今様にするには物足りなさを感じていた 唯一創作に子どもの想像力を刺激する無心の刻か   何かが降りてきたように創作する テーマが湧くと話の筋はキーボードを叩く 果たして単純な出来事にも訴えるべき価値と面白さがあった 唯一現代昔話は子どもの心に響くのかが問われる刻を待つ   〔 2025 年 3 月 23 日書き下ろし。憑かれたように書いた創作の昔話。 Blog でも紹介済みの作品があるが、これからも書き続けたいという創作の面白さをいまになって味わっている〕

現代昔話「夢を買う男」

むかしむかしあるところに男がいました たいそうな金持ちでなに不自由なく暮らしていました こうしたいと思ったことはなんでも叶いました こんなものがほしいと思うとすぐに手に入りました 迷うことも悩むことも知らずお金でぜんぶ済みました   あるとき子どもが「おらの夢は…」と話しているのを聞きました 夢って何だろうと思いました 食べ物だろうか モノだろうか 夢を見たと言うから目に見えるのだと思いました 男は夢って何かを知らなかったのです   男は子どもの夢を買うことを思いつきました 夢を自分のものにするって何ってワクワクするのでしょう 町に出て子どもを見つけては夢を語ってもらいました そして誰かにこの夢の話をしないよう約束させました その代わりに夢を買うと言ってお金を渡しました 子どもはビックリして逃げていきました   子どもの夢はたわいないものでした 大きくなったらどんな仕事をしたいかとか きれいな着物を着てみたいとか 美味しいものをお腹いっぱい食べてみたいとか しっかりした夢もありました 育ててもらった親に孝行したいとか 困った人を助ける人になりたいとか 学問をしてみんなに喜ばれる偉い人になりたいとか 中にはお金持ちになりたいという子もいました   夢を語っている子はどの子もキラキラしています 男は夢は叶うことのない願いだとわかってきました それでも夢が叶うよう頑張ることが楽しいと話すのです 男は夢に向かって目を輝かせる子どもが信じられません 自分はそんなことを一度も思った事もなかったからです こうしたいと思ったことは何でもお金で出来たからです こうして子どもの夢を買ってみて気づきました 男にはキラキラしたりドキドキしたりワクワクすることが なにもなかったことを知らされたのです   男は一人の子どもに夢の話を聞いたときにハッとしました 子どもは夢をいくら買っても次から次とうまれてくるんだよ その夢を買おうなんてずいぶん間の抜けた馬鹿げた話だね おじさんは夢を買うと自分のものになったつもりでいるかもしれないけれど 夢は一人ひとりの心の中からうまれてくる...