蝦夷梅雨
十数年前関西に在った
梅雨の蒸し暑さに閉口し寝苦しい夜を味わった
吹き出る汗は乾いたタオルをすぐに湿らせた
道産子には梅雨時の不快感はたまらなく嫌だった
よく近所のスーパに買い物に出かけた
道々古い木造建ての文化住宅が軒を連ねている
風通しの悪い下町の細い路地を歩きながら
クラーなどなかった時代を想像した
老いたる身を横たえてしのぐにはなまじキツい
数年風呂にも入れず妻の清拭で我慢する
ある時ボランティアが買物を頼まれた
腰痛で出歩くことさえ出来なくなった妻がお願いした
ボランティアは夫の介護に明け暮れる妻の苦労を聞いた
倒れてから風呂にも入れず梅雨に耐えている老身を思いやった
老人福祉施設に浴槽を利用できないか聞き回った
福祉法人の社会資源を開放する地域貢献とマッチングした
夫は狭い路地を担架で運ばれ車で施設へと向かった
入浴サービスが始まるきっかけとなった梅雨の日の出来事だった
蝦夷梅雨という言葉が生まれた
今週から梅雨入りという有難くない予報が流れた
天候異変が異変でなくなり内地に似てきた
去年の熱夏も異常気象ではなくなる
梅雨も暑い夏も道産子が受け入れねばならない気象か
いずれ稚内でも米作りが出来るようになるのかもしれない
梅雨に映える紫陽花の花芽もようやく大きくなった
ラベンダーは花の盛りをこれから迎える
大好きなシャクナゲはいまを盛りに次々と花を開いてゆく
我が庭の夏の花たちは灰色の空の下では似合わない
蝦夷梅雨が上がり陽光にその命を投げ出してこそ輝く
いまはじっとそのときを待つとしよう
〔2022年6月19日書き下ろし。梅雨入りと聞いて入浴サービスのきっかけを想い出した。有難くない蝦夷梅雨の命名を受け入れるしかない日々が続く〕