つかの間に

幼き日の記憶はない

写真に残る日々は想い出せない

きょうだいとの楽しき一片は忘れてはいない

それから長い時間が経った

長い時間が経った

そう思っているだけかも知れない

 

人生は闇から一瞬の光を抜けて闇に消える

詩人キーツの一節を想い出す

長いと感じたのは錯覚だった

つかの間に数え切れないドラマが生まれた

 

生まれ出ずるとはなんと非情なのか

幸せを奪う深い悲しみを味わい尽くす

愛する者たちとの死別こそ辛苦だ

ドラマは宿命を背負い演じ続けるしかない

 

いつかの日までドラマは続く

奇跡を演じきる主人公として生きるしかない

不思議に身を委ねて生きるしかない

抗うことも許されぬその日まで生きるしかない

 

幼き日の幸せだった過去を想い出せない

祖父母や父そして母の写真を飾った机の上

確かに存在した者たちへの愛慕だけは真実だ

つかの間だった家族の絆こそ本物だった

 

いつかの日に伝えねばならない

妻と娘と孫に幸せだった感謝のおもいを

妻との出会いと人生を共に紡いできた感謝を

娘との出会いに人生の喜びを創ってきた感謝を

孫との出会いにかくもドラマチックである人生に感謝を

いつかの日まで無事に生かされることに感謝を

またひとつ重ねる年輪に家族への愛が深まる

家族愛を育むことこそが仕合わせだと心に刻む

 

〔2024年12月1日書き下ろし。生まれ育ったことと家族への感謝を込めて〕

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