朋友の妻の決断
数日前メールで札幌への転院の日が決まった
長患いで1年近く病院をいくつか回された
いまの病院で転院を宣告された
透析患者の療養型の病院はあった
しかし妻の面会は月に数度と限られた
さらにコロナ感染期と同様のパテーション越しの面会だった
最期まで手を握ることさえ出来ないと知らされた
監獄と変わらぬ収容施設然とした対応に驚いた
入院している病院のコーディネーターに相談した
娘のいる札幌で捜してもらった
3月初旬紹介された病院との面会に同席した
アットホームの雰囲気が母娘も気に入った
面会時間も人数制限も患者と家族ファーストで緩かった
帰宅後転院の意思を伝えてベッドの空くのを待つ
5月1日札幌から一報が入った
中旬の数日を指定してきた
移送する民間救急車の予約など準備が始まる
妻は気持ちがザワザワとしてきたと訴えた
決断に揺れてる
彼の意向を聴くことも出来ず苦しめてきたのではないか
ここから札幌に転院させることも同意は得てはいない
意思表示すら出来なくなった夫への悔いを抱える
よかれと思った事でも彼が納得したわけではない
彼の声を聴きたい…
転院の連絡を受けたから押し問答を続ける
これでよかったのかと…
苦悩の涙は波となり幾度も満ちては引いた
沈黙する夫はひゃっくりを繰り返した
返信した
ひとりぼっちにしたくない
せめてそばにいたいという二人のおもい
彼もきっとそう願っているから
命燃え尽きるまでそばにいようよ
もう1年近く二人で頑張ってきたのだから
できる限りのことをしてきたね
お互いに許し合い彼も身を委ねてきたでしょ
あなたの苦しみや哀しみも十分に汲み取っているよ
きっと苦労をねぎらう感謝の言葉をかけたいと
そういう男だよ
正解なんて求めることはいらないい
ほんとに一緒になれて幸せだった
照れたように笑う寡黙なあいつを思い浮かべる
夫婦であるということは最期まで諦めないきずなかと
誠実さと温かさを育んできた二人は真実の愛を語る
やり残したらきっと悔いを残して自分を責めるだろう
あいつの心配はそこだよ
包容力があだになる
何も語らずともあいつのひとたらしにやられる
だから信じよう
きっと同じ気持ちだった
手を握ってあげられるよ
背中をさすってあげられるよ
口下手だけど実直な男には妻とわかり合える
そう信じて送り出そう
そろそろ涙の海からあがっておいで
一人になればまた堂々巡りになるでしょう
それこそが彼と心で対話する貴重な時間だね
だから不安でも恐れでも受けとめるしかない
無事札幌で夫婦を笑顔で迎えます
彼は何も言ってはくれない
でもあなたの言葉が夫の言葉と信じて前に進みます
〔2026年5月3日書き下ろし。朋友が無事やって来るのを静かに待とう〕