99歳の蕎麦打ち

なぜか落涙した

一枚の写真に見入られた

 

古い食堂の厨房

壁には道具類が綺麗にかけられている

作業台の横にコーヒーメーカーの箱

なぜか目に止まった

 

使い古した伸し板に包丁を持つ老婆

板の上には使い慣れた伸し棒が置かれる

足元には年季の入った丸太が踏み台となる

割烹着を着て伸した蕎麦を切る作業に入る

直角に構えたその姿に祖母ヤエ子を重ねた

 

仕出し屋で料理を作っていた祖母

プロ用のガスコンロが台所に置かれていた

食材を素早く切り分け料理していく

その手際のよさと旨さに感嘆した

 

徳島県三好市に在する99歳になる老婆

戦後結婚し夫と二人食堂を始めた

70年はゆうに越えるキャリアだ

小麦粉アレルギーを客から伝えられ十割蕎麦にした

夫の死後息子と店を切り盛りする

朝6時過ぎから仕込み日暮れまで営業するという

 

蕎麦粉をこねるには力が入らず腰も辛いだろう

のばした蕎麦は均一にはならず

切っても太さに手作り感が滲む

田舎蕎麦というに相応しい一品と想像した

食べてみたいと唾が出た

 

何の蓄えもない

働かなんだらご飯が食べられない

厳しい現実を受け止めながら現役でいる

伸し棒を転がしながら今朝も蕎麦を打つ

 

いったい何人前の蕎麦を打つのだろうか

素人ながら蕎麦打つ身としてその老体に心動いた

老いても働き続けた祖母の姿と重なり落涙したのか

 

〔2026年9月22日書き下ろし。昨日の朝日新聞。敬老の日の特集記事。「そば茶屋」の向井芳香さんの記事に心が動いた〕

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詩集は、“kokorookinaku3.blogspot.com”


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